小説・エッセイ

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「イイ女」の価値観もアップデートを――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は80年代後半~90年代前半に多数出版された女性向けエッセイについての考察、後編です。 ※当記事は連載の第8回です。最初から読む方はこちらです。 #8 大人のいい女(後編) (前回まで)40歳になったばかりの私は、幼い頃の記憶の母が、今の私とほとんど同い年なのに、大人っぽくて素敵だったことをふいに思い出し、あの頃の母の姿に近づくべく、80~90年代に大流行し

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オリジナルでなければ研究者とはいえない――「マイナーノートで」 #08〔師匠のDNA〕」上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 師匠のDNA  学校がキライだった。不登校にこそならなかったが、学校では寝てばかりいた。放課後だけが生き甲斐だった。  大学には行ったが、女子学生には公務員になるか教師になるかしか選択肢がなかった時代に、「でもしか教師」になる退路を断つために、教員免許はとらな

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引っ越しておもう祖父のこと、幼い頃のこと――「熊本 かわりばんこ #08〔家の記憶、ひとの記憶〕」田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 家の記憶、ひとの記憶  新しく住まった家は生類の気配が濃い。  夜になると、勝手口の定位置にヤモリが現れる。灯りにあつまるさらに小さな生き物をじっと待っている。時間もほぼ同じでだいたい10時半くらい。ガラス戸の向こう側にいるので、小さ

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日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔マダムと黒猫〕 新井見枝香

※当記事はエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第22回です。第1回から読む方はこちらです。  旅先の温泉街で喫茶店に入った。急勾配な坂の途中にあり、ともすれば看板に気付かず通り過ぎてしまう、ひっそりとした佇まいだ。趣味の合う知人の勧めがなければ、薄暗い地下へ降りるのを躊躇ったかもしれない。背筋の伸びたマダムにコーヒーを注文し、サンドイッチを待つ。ひとり客の私は、マダムとのちょっとした世間話が嬉しく、聞かれたことに答えたり、常連客を交えた話題に口を挟んだりした。本当は、

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どんなに身近な家族でも本人を代弁することはできない――マイナーノートで ♯07〔認知症当事者のもたらしたパラダイム・シフト〕上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 認知症当事者のもたらしたパラダイム・シフト  若年性認知症を39歳で発症して8年、認知症当事者として『丹野智文 笑顔で生きる』(文藝春秋)などの情報発信を続けている丹野智文さんが、新刊を出した。その発刊を記念して、認知症当事者勉強会(なんともう22回も実施してい

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素敵な女性になるためのバイブル――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は80年代後半~90年代前半に多数出版された女性向けエッセイについての考察です。 ※当記事は連載の第7回です。最初から読む方はこちらです。 #7 大人のいい女(前編)  仕事も一段落して、めっきり涼しい。そうなると途端に、お洒落や美容に自発的に力を入れたくなってくる。そんな時、思い浮かぶのは私が子どもの頃見た母の姿だ。いつもちゃんと口紅をつけていて髪をセット

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井上陽水~幸田文~岡本仁――「熊本 かわりばんこ #07〔思わぬ喜び、かなわぬ希望〕」吉本由美

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 思わぬ喜び、かなわぬ希望 探しもの ♪♪ 探しものは何ですか?   見つけにくいものですか? ♪♪  という井上陽水の『夢の中へ』を歌いながら部屋から部屋へ渡り歩くのがこの頃の日課になった。毎日何かを探している。とにかくもの忘れがひ

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日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔千穐楽と送別会〕 新井見枝香

※当記事はエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第21回です。第1回から読む方はこちらです。  久しぶりに神保町へやって来た。有楽町で書店員になって、いつかは働いてみたいと憧れた本の街である。今の書店に転職を決める時、私は三省堂書店の神保町本店で働いていたのだ。辞表を出す前に、何度も自分に確認したことがある。 「それって今の職場から逃げ出す口実ではないよね?」  長年、同じ会社に勤めていると、何人もの退職を見届ける。理由は様々だったが、本当のところは本人にしかわからない

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ハードワークからの回復――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は、新作長編『らんたん』の発刊を控え、怒涛の締め切りを乗り越えた後の様子のリアルレポートです。 ※当記事は連載の第6回です。最初から読む方はこちらです。 #6 徹夜明け  大きめの締め切りが終わった。子どもがレゴで遊んでいる横で、ずっと原稿を赤ペンでチェックしているような日々を二週間送っていた。最終日は徹夜して、バイク便の方にゲラを渡し、ほっとして周囲を見渡

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戦争体験の「継承」――マイナーノートで ♯06 〔被傷体験〕上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 被傷体験  今も胸を刺す記憶がある。 「おひとりさま」シリーズの取材のために、高齢おひとりさまをお訪ねしてインタビューをしていた時のことだ。わたしはおひとりさまになってからの暮らしのあれこれについて聞きたかったのだけれど、話は先立たれた夫の看病と介護、そこに至る

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