本当に恐ろしい体験だったからこそ、語っていかなければならない。「だれしもが」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#33 だれしもが
たまには、こどくに起きた統合失調症の症状のはなしでもしよう。
高校2年生。たのしいことずくめの時期。こどくは唐突に、学校へ行けなくなった。
そのころのこどくは、おともだちもたくさんいたし、毎日がたのしくってしょうがなかった。
それでも、学校へ行けなくなった。
それから、ひとり部屋でいちにちをすごすことがおおくなった。やっとこさ外に出て、学校に行こうとしても、反対方向の電車に乗ってしまったり、ホームで動けなくなってしまったり。
反対方向の電車に乗り、ぜんぜん知らない土地をひとりで歩いていたとき、学校から心配する電話がかかってきて、こどくは泣きながら言った。
「学校に行けません」
当の本人であるこどくでさえも、なにが起きているのか、まったくわからなかった。
こどくは心療内科に通うこととなり、「うつ病」と診断がおりた。おくすりを飲みはじめたが、調子はわるくなる一方。
部屋からは相変わらず出られないし、トイレにさえ、行くことが億劫だと感じるようになっていった。
そしてある日。
「しね」という声が聞こえた。そして、「しななければ」と思った。行動に移そうと、包丁を握ろうとした。かぞくが、止めてくれた。それからわがやでは、あらゆる刃物はこどくの知らないところに隠す、ということになった。
それでもまだ、「しね」という声は止まらない。そして、「その通りにしなければ」と思っていた。こどくは、高いところに行くと飛び降りようとし、外に出ると車道に飛びだそうとする。まいにち、ずーっと、こどくをかぞくは見張らなければならなくなった。
そしてまたある日。
おおきな黒いひとのようなものが、こどくのへやに現れた。そして、罵詈雑言を浴びせてきた。こわかった。かぞくにそのことを話すと、「そんなひとたちはいないよ、だいじょうぶだよ」とやさしく答えてくれた。
そうしてついに、精神科にかかることとなり、「統合失調症」との診断がおりた。「しね」という声も、おおきな黒いひとも、統合失調症の症状のひとつ、陽性症状からくる「幻覚」だということがわかった。そしてこどくは、診断がおりたその日のうちに、そのまま入院することになった。
ここまでが、こどくが「統合失調症」と診断され、入院するまでのおはなし。16歳だったこどくに起きた統合失調症の症状の数々。しかし、人生、そのあとのほうが長いものだ。来週からは、そのあとについてはなしていこう。
いま考えると、ほんとうにおそろしい体験をしたな、と思う。だからこそ、語っていかなければならない。だれしもが発症する可能性のある、精神疾患なのだから。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。