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統合失調症当事者が、むりなく、偏見もなく、安心した場所ですごせるように。「よすが」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
※#0から読む方はこちらです。


#32 よすが

 統合失調症についてもっと知られればいいのに、と思うのはこどくだけだろうか。
 100人にひとりがかかり、好発年齢といって、かかりやすいのは10代、20代のわかいひと。はるかむかしから存在し、世界中どの国でもたいてい同じ確率で発症する。幻覚や妄想といった陽性症状、やる気がなくなる陰性症状、それまでできていたことができなくなる認知機能障害。おおまかにいうとこの3つの症状が表れる。
 いま説明したことを知っているわかいひとは、どのくらいいるのだろうか。こどくはすくなくとも、自分が発症するまで、統合失調症という病気のことを、名前すら知らなかった。
 無知は時として、統合失調症当事者にも、まわりのひとにも猛威を振るう。知らないがゆえ、治療や福祉サービスにつながることが遅くなり、症状を悪化させることもすくなくない。
 では、どうすれば知ってもらえるのだろうか。
 こどくは、統合失調症当事者が、「社会に出る」ことで解決すると思う。社会に出て、よりおおくのひとが認知することで、理解を深めてもらうのだ。しかし、これにはおおきな問題点がある。
 統合失調症当事者のおおくが、「社会に出る」ことこそがしんどい状況にいるのだ。理由はおおきく分けてふたつある。
 ひとつめは、統合失調症に対して根強く残る偏見のせいだ。「精神科にかかったら廃人になる」と、あるひとに言われたことがある。だが、現状で、医学的に症状を和らげられるのは、精神科の診察とおくすり、入院による治療だ。だから、精神科でそんな治療を受けているこどくはそのひとにとって、「廃人」であるのだろう。それだけではない。こどくがつらいこともぜんぶ無視して、こどくが統合失調症であることを疑われたこともある。そんな偏見があるうちは、社会になんて出られない。
 ふたつめは、そもそも「外に出る」ことがむずかしいケースだ。さきほど述べたとおり、統合失調症当事者は幻覚や妄想といった陽性症状が出ていることがおおい。たとえば、ある日、こどくの幻聴はこどくに「しね」と言ってきて、こどくはしななければならない、と思った。気が付いたら、こどくは道路に飛びだそうとしていたところを、かぞくにすんでのところでつかまれて、事なきを得た。また、外に出ると、「だれかにころされる」と思いこんでしまう妄想が出ていたこともあった。そんな状況にあるひとは、「外に出ることがむずかしい」といえるだろう。そして、やる気がなくなる陰性症状も、外出をはばむおおきな理由だ。ベッドから起き上がらずに外に出られたらいいのに、とこどくは何度思ったことだろう。そのベッドから起き上がることすらむずかしい状態で、外になんて出られるわけがない。
 もう、わかってくれただろうか。統合失調症は、当事者が「社会に出る」ことでより知られていくと思う。しかし、当事者は、「社会に出る」ことこそが、しんどいのだ。
 では、どうすればよいのか。
 「社会」が変わる必要がある。
 統合失調症当事者が、むりなく、偏見もなく、安心した場所ですごせるように、「社会」を根こそぎ変えなければならない。
 こどくは、そのために、こうしてエッセイを書いている。このみじかい文章がバタフライエフェクトのように社会を変えることを、よすがとしながら。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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