見出し画像

たとえ一生治らない病気を抱えていても、たのしく考えるように。「おもしろいじゃないか」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
※#0から読む方はこちらです。


#31 おもしろいじゃないか

 統合失調症という病気は、一生ものの病気だ。たとえ症状が落ち着いて、病気でないように見られる状態になっても、症状が一時的に軽くなること、つまり「寛解」といって、「完治」とはいわれない。おくすりも飲まなければいけないし、病院にも定期的に通う必要がある。
 そんな病気を抱えているこどくだが、配信活動を行っているいまの状況でさえも、まだ寛解にはほど遠い。体調がわるいと症状のひとつである被害妄想や感覚過敏が表れる。もっと体調がわるくなると、幻覚が見えたり聞こえたり、希死念慮きしねんりょといって、しにたくなってしまったりすることもある。また、陰性症状という、なにもする気が起きない症状が出てしまうと、もうやすむことしかできない。
 そんな統合失調症は、なぞのおおい病気で、脳で分泌されるドーパミンの量が過剰になることで発症するといわれているが、なぜそうなるのか、理由はいまだ解明されていない。こどくだって、平凡な人生を歩んできた。なぜ統合失調症になったのか、当事者本人でさえも、知らない。
 発症理由もわからなければ、完治する方法もわからない。
 だから、こどくはつねづね考えていることがある。
 これはこどくの単なる妄想で、まったくもって事実ではないことを了承した上で聞いてほしいのだが、いまだに完治する方法がわかっていないのならば、とある条件が重なったとき、奇跡的に完治するのではないか、と思うのだ。
 たとえば、自宅の西方向3ブロックめに自転車で行き、自転車にまたがったまま大盛りの牛丼を食べれば完治する、とか。
 たとえば、近所の銀行で、特殊詐欺に遭いそうになっている78歳5か月のかたを助ければ完治する、とか。
 いやいやそんな、と思っただろうが、もしかしたら、本当かもしれないではないか。なぜなら、だれにもわからないのだから。そして、だれも行動に移していない、移そうとも思わないのだから。
 まさか、牛丼を食べただけで、詐欺から守っただけで完治するなんて、だれも、つゆほども思っていないだろう。だからこそ、こどくはそう思うのだ。
 だれも知らない、ということには、無限の可能性があると思う。まっしろなノートと同じようなものだ。なにを描いてもいいし、どう描いてもいい。それでたとえ統合失調症になってそのノートがぐしゃぐしゃになっても、もしかしたらまっしろなノートに戻る方法があるのかもしれない。だからこどくは、たとえ一生治らない病気を抱えていても、こうしてたのしく考えるようにしている。だって、そっちのほうが、おもしろいじゃないか。

#32へ続く
#30へ戻る
※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

※「本がひらく」公式X(旧Twitter)では更新情報などを随時発信しています。ぜひこちらもチェックしてみてください!