料理の出し方で途端に時間の流れが変わる。「フランス人から学んだコース料理の美学」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加
自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。世界の自炊の風景を求めて旅を続けている山口さん。フランスで本場のコース料理に触れたことで、大きな発見があったとか――。
※第1回から読む方はこちらです。
#20 フランス人から学んだコース料理の美学
2024年7月、私は3週間かけてフランスを旅しました。この旅で学び、私が家に持ち帰った「習慣」があります。それは、前菜、メイン、デザートの順番でゆっくりと料理を食べること。地元の人で賑わっているビストロ(レストラン)はこのコースを採用しているところが多いですし、フランスで暮らす方のお家に招かれたときもこのコーススタイルでした。メインとデザートの間にチーズを挟むことも多く、「このタイミングでチーズを食べるのか!」と驚きがありました。和食の割烹料理のように何品も出てくるわけではなく、たったの3つ(あるいは4つ)なのですが、しっかりと心の満足感があります。
私は前々から、定食のように一気に出してしまうスタイルではなく、小料理屋さんスタイルでちょこちょこと食べようと自分の本でも書いてきました。例えば、簡単なおつまみを食べて小腹を満たしてからパスタを食べる。サラダを先に食べてからメインを作る。そういう順番で食べるとお腹が空いてイライラすることもないですし、ちょうどいい量で食べられます。
ただ、これは日常の食事の話で、お客さんを招くとなると、たくさん作ってもてなそう! という気持ちで満々でした。もちろんそういう気分の時は気合を入れて作りますが、一緒に仕事をしている人を家に招いて打ち合わせをする時や、最近会っていなかった友達を呼んだ時など、おもてなしするというよりも、気楽に楽しんでほしい食事の場もあります。フランスから帰ってから、そんなカジュアルなランチの場面で前菜、メイン、デザートのコースを採用するようになりました。
例えば友達を招いた時のこと、その日はに茹でたオクラを刻んだところに温泉卵をのせ、めんつゆとお酢を合わせたタレをかけたごく簡単な前菜を用意しました。遊びに来てくれた友達は「すごく簡単なのに、おいしい。うちでやってみる!」と嬉しい一言をくれました。
メインには、夏だったので塩焼きにしてからお出汁で炊いた「鮎の炊き込みご飯」。ミョウガと油揚げの赤だしを合わせました。炊き込みご飯は少し手間がかかりますが、お鍋の蓋を開ける瞬間に「わぁ!」と相手が喜んでくれるので作り甲斐があります。
フランスで食べたデザートはレストランであれば洋菓子が出てきますが、家庭でのデザートはヨーグルトやフルーツ、チョコレートといった簡単なものが多かったです。なので友達を招いた時は、桃にギリシャヨーグルトを合わせてさっぱりとしたお口直しを出しました。日頃から甘いものを食べるのは習慣ではないのですが、やっぱり食事の最後に甘いものが出てくると口角が上がります。
一度に全部出すのではなく、ただ数回に分けて料理を出すだけで、途端に時間の流れが変わるのが不思議です。おもてなしとなると何度もキッチンとダイニングを往復してお客さんと会話する時間がどうしても減ってしまうのですが、3往復だけであれば大した時間ではありませんし、こちらにも余裕ができます。お客さんと落ち着いて食事ができて、実りのある時間を過ごせている実感があります。全部手作りでなくても、前菜は簡単なサラダ、メインは一緒に食べる人と一緒に選んだ宅配ピザ、デザートは果物をそのままなども素敵だと思います。デザートは相手に何か持ってきてもらうこともありです。3品コースを食卓に取り入れれば、おもてなしのための食事の場よりもっと気軽に誰かと一緒に食事の楽しみを味わえますし、時間がある時に家でこのコースを採用すればゆったりとした時間の流れを感じられますよ。
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※本連載は毎月1日・15日更新予定です。
プロフィール
山口祐加(やまぐち・ゆか)
1992年生まれ、東京出身。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(紀伊國屋じんぶん大賞2024入賞)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など多数。
*山口祐加さんのHPはこちら。