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教養・ノンフィクション

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記事一覧

胃弱と文学とチャーハンと(英米文学者・阿部公彦) 【前編】

英米文学研究から文芸評論まで幅広く手がけ、「名作いじり」「事務」などユニークな視点の著書の多い、東京大学教授の阿部公彦さん(57)。「胃弱と文学」もテーマの一つで、「100分de名著」(NHK)では夏目漱石の作品を「胃弱」を通して読み解き異彩を放ちました。「胃弱の文学」とは? 胃弱と文学とチャーハンの関係は? ■「胃弱」をネタ化する漱石『吾輩』の猫──文学への「食」のアプローチでは、「美食」「料理」「空腹」などの視点からはありましたが、「胃弱」からの読み解きは珍しいのではな

町中華のチャーハンを胃弱的に食べる(英米文学者・阿部公彦) 【後編】

夏目漱石の「胃弱」から始まり、大江健三郎の「嘔吐」、そして若者言葉「キモい」まで。前編では「胃」的表現が表す時代の意識を伺いました。後編では、“やや胃弱”という英米文学者の阿部公彦さん(57)がどんなチャーハンを食べているのか。「ムカつき」と近代小説誕生の関係、事務処理化する社会と「胃弱」についても合わせて伺いました。 ■「一度きり」のチャーハン ──普段、チャーハンは食べますか。 子どもが小さい頃はよく作っていましたね。もう成人しましたが。 子どもって味付きご飯が好きじ

"心に残るチャーハン"は台湾の「シエンタン炒飯」。最適解でない味を求めて (料理人・文筆家、稲田俊輔) 【1/4話】

稀代の「食いしん坊」かつ「料理」「飲食店経営」のプロでもある稲田俊輔さん。エリックサウス総料理長として南インド料理ブームの火付け役となっただけでなく、その複眼から繰り出される「食エッセー」やSNSでの「問答」でも人気です。 4話にわたってお届けする稲田さんのインタビュー。第1話は、稲田さんの「心に残るチャーハン」、旅先で感動的な料理に出合うコツ、稲田さんが自称する「フードサイコパスとは何か」など伺います。 ■台湾の「鹹蛋炒飯」に感激。旅先で「感動的な料理」に出合うコツ──稲

あなたの街は大丈夫? 人口減少時代の再開発を問う

福岡、秋葉原、中野、福井など、現地の徹底取材から浮かび上がる再開発の光と影とは――。 2024年1月20日の放送が反響を呼んだNHKスペシャル「まちづくりの未来~人口減少時代の再開発は~」をはじめ、再開発の内実に切り込んだNHKの番組をもとにした新書『人口減少時代の再開発 「 沈む街」と「浮かぶ街」』が好評発売中です。 その再開発は、高層化ありきのスキームとなっていないか、資材や人件費の高騰による財政リスクにどう対処しているか、街の個性や住民目線を置き去りにしてはいないか、そ

連載 ロジカルコミュニケーション入門――【第15回】なぜ帰納法に陥ってしまうのか?

●論理的思考の意味  本連載【第1回】「論理的思考で視野を広げよう!」では、「論理的思考」が「思考の筋道を整理して明らかにする」ことであると解説した。たとえば「男女の三角関係」のように複雑な問題であっても、思考の筋道を整理して明らかにしていく過程で、発想の幅が広がり、それまで気づかなかった新たな論点が見えてくる思考法である。 【第2回】「論理的思考で自分の価値観を見極めよう!」では、「ロジカルコミュニケーション」によって新たな論点を探し、反論にも公平に耳を傾け、最終的に自

人間はなぜ錯覚するのか? ビル・ゲイツが愛読する現代アメリカの“知の巨人”、バーツラフ・シュミルによる新感覚の教養書、『SIZE(サイズ)――世界の真実は「大きさ」でわかる』(NHK出版)発売!

ビル・ゲイツが「人々がスター・ウォーズの新作を待ち望むように、私は著者シュミルの新作を待つ」と言明する、現代の“知の巨人”バーツラフ・シュミル。『Numbers Don’t Lie――世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)では71のトピックについてデータやグラフに着目して世界を正しく理解する方法を説いた著者が、わたしたちの日々の暮らしを無意識のうちに規定する「サイズ」という観点からさまざまな現象を考える新感覚の教養書が本作『SIZE(サイズ)――世界の真実は「大きさ

謎に包まれた「和歌所」が明かす、中世日本の政治と文学とは?

和歌文学を専門とする小川剛生さんによるNHKブックス『「和歌所」の鎌倉時代 勅撰集はいかに編纂され、なぜ続いたか』が好評発売中です。勅撰和歌集の成立に深く関わるとされながらも全容の明らかになっていない「和歌所」という場に注目し、鎌倉時代以降の勅撰和歌集がいかに成立し、受容されたかを丹念に解き明かします。和歌が厳然たる権威を持つようになった鎌倉時代、「和歌所」に注目することで見えてくる、政治と文学の関りとは? 本書の刊行を記念し、「はじめに」を特別公開いたします。 はじめに 

シン・アナキズム 終章「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は、「行って帰ってくる」物語だ。そしてこの映画は、アナキスト的価値観が脈打つ作品である。アナキズムとフェミニズムの融合という稀にみるテーマを扱った映画といってもよい。  この連載も今回で一区切りとなるので、締めくくりにこの映画について話しておきたい。実は連載をはじめたときからずっと、「最終回はデス・ロードで」と構想を温めてきたのだ。  ところが、5年越しでアナキズムと格闘している間に、なんとジョージ・ミラーの新作「マッドマックス 

悩んだときは『孫子』×『貞観政要』と『菜根譚』×『呻吟語』が役に立つ!

 中国古典研究の第一人者・湯浅邦弘さんによる『中国古典の生かし方 仕事と人生の質を高める60の名言』が好評発売中です。『孫子』×『貞観政要』と、『菜根譚』×『呻吟語』の名言・格言を、身近なたとえを用いてわかりやすく解説する、ユーモア抜群の中国古典ガイドです。  今回はその刊行を記念し、本書の一部を特別公開いたします。 はじめに 漢字・漢文には人類の英智が凝縮されている。そのことは分かっていても、いざ漢文を読もうとすると、ページをめくる手が止まってしまう。漢文教科書にあった難

古生物学者、絶滅の危機!?――『古生物学者、妖怪を掘る』『古生物学者の40億年』荻野慎諧×泉賢太郎 特別対談

◆ジャンルの裾野、どう広げるか?編集部 古生物学をテーマにした新書はいくつか出版されていますが、お二人の共通点は新書のタイトルに「古生物学者」を冠しているところですよね。それぞれ異なるアプローチで古生物学者の頭の中を覗くことのできる好著ですが、まずは最近新刊を出された泉先生に、ご自身の著書についてご紹介いただけますか。 泉賢太郎(以下、泉) 新刊の『古生物学者と40億年』(ちくまプリマー新書)は、ひと言で説明しづらい本なんですが、古生物学という学問の土台を突っついたり見直

連載 ロジカルコミュニケーション入門――【第14回】知識人が非論理に陥る理由!

●論理的思考の意味 本連載【第1回】「論理的思考で視野を広げよう!」では、「論理的思考」が「思考の筋道を整理して明らかにする」ことであると解説した。たとえば「男女の三角関係」のように複雑な問題であっても、思考の筋道を整理して明らかにしていく過程で、発想の幅が広がり、それまで気づかなかった新たな論点が見えてくる思考法である。 【第2回】「論理的思考で自分の価値観を見極めよう!」では、「ロジカルコミュニケーション」によって新たな論点を探し、反論にも公平に耳を傾け、最終的に自

激動の時代、近代哲学の冒険者たちは何と格闘したのか?

哲学研究の第一人者が集結し、西洋哲学史の大きな見取り図を示すシリーズの第二弾『哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで』が刊行されました。著者に上野修さん、戸田剛文さん、御子柴善之さん、大河内泰樹さん、山本貴光さん、吉川浩満さんをむかえ、デカルトからカント、ヘーゲルを中心としたドイツ観念論までの近代哲学を扱います。 刊行を記念し、斎藤哲也さんによる「はじめに」の全文と上野修さんが指南役を務めた第一章「転換点としての一七世紀 デカルト、ホッブズ、スピノザ、ライプニッツの哲

今こそ世界の真の危機を見ろ! ジジェクの思想と政治批評にこの一冊で入門する!

パンデミックを経てますます注目される現代思想の奇才、スラヴォイ・ジジェク。NHK出版新書から発売された『戦時から目覚めよ 未来なき今、何をなすべきか 』では、ジジェクが西欧と世界で今起きている事象の本質をえぐり、混迷と分断渦巻く世界の「可能性」を問います。 気候変動、生態系の破壊、食糧危機、世界大戦――人類の破滅を防ぐための時間がもう残されていないのだとしたら、我々は今何をなすべきなのか? 本書の刊行を記念し、序文を特別公開いたします。 序 フュチュールとアヴニールのはざま

シン・アナキズム 第5章 グレーバー (その12)

 みなさま、おはこんばんちは! 何を言っているんだと思われそうだが、鳥山明を追悼している。「Dr.スランプ アラレちゃん」に心酔して声優を目指したのに、中学の友人たちに「西友」と間違えられてから早43年と思うと感慨もひとしおだ。このアニメのエンディングソングで「ペンギン村からおはこんばんちは 右向いて左向いてバイちゃバイちゃ」と言っていた。高橋留美子と鳥山明とともにはじまった80年代アニメの世界には、ガンダム系とは異なった独自の歴史がある。  というわけで、春休みで調子が