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言葉の力を信じながら──92歳・五木寛之さんからのメッセージ

作家・五木寛之さんによる「人生のレシピ」は、誰もが百歳以上まで生きるかもしれない時代に、新しい生き方を見つけるための道案内となる累計17万部超えの人気シリーズです。
NHK「ラジオ深夜便」の語りを再現して贈るシリーズの完結作となる第10弾は『百歳人生の愉しみ方』(2024年10月刊)。同時期に刊行となる『五木寛之×栗山英樹 「対話の力」』とともに、人生の後半を切り拓くヒントが満載です。
今回はシリーズ完結に際しての、五木さんからのスペシャルメッセージをお届けします。

 〈人生のレシピ・シリーズ〉の完結にあたって、個人的な驚きと感謝の言葉をのべたいと思います。

 もともと人と話すことが好きで、言葉の力というものを文章以上に大事にしてきた私ですが、最初の第一冊はまさかこれがシリーズとして何冊も続くとは正直、予想もしていませんでした。

 私だけでなく、このシリーズを企画した編集スタッフも、おそらくそうだっただろうと思います。

 話すように書く、などとよく言われますけど、本当はそれは大変むずかしいことです。語りには表情も、声色こわいろも、ゼスチュアもあって、文章だけでそのすべてを再現するのは至難のわざ、といっていいでしょう。

 しかし、このシリーズでは、できる限りナマの言葉の実感を再現できるように工夫したつもりです。つまり、文章を読んでいると、あたかも向き合って話を聞いているような感じがする、そんな活字化を試みました。

 おかげさまで、ふだんはあまり活字に親しむということがない方たちにも、意外なほど気軽に受け入れられて、予想をこえる反響があったことは望外の歓びでした。

 生きていくことは、楽しくもあり、また困難なことでもあります。世の中のすべての人が、どこかでそれを感じているのではないか。

 私自身もそうです。

 しかし、だれかを相手に声にだして語っているときは、自然に気持ちが明るくなってくる。

 ぼくが九州出身のお喋り好き、というだけではありません。

 一人で考え、一人で喋っている、ということと、だれかに語りかけているのでは、全然ちがう。私は常に目の前にいる聞き手だけでなく、大勢の仲間に向かって喋っている気持ちで言葉をつづってきました。

 私は犬や猫が大好きで、昔は一緒に暮らしたこともあるのですが、彼らが仲間と一緒に餌を食べているところを見ていますと、お互い親子、親友であっても押しあいへしあい、ひたすら食べることに熱中しています。

 しかし、人間は食事のときに楽しい話題を語り合って、和気藹々わきあいあいとして食べることが多い。対話をする、会話をすることは、食べることと同じように大事なことなのです。

 そんなひそかな野心を抱いて続けてきたこのシリーズですが、読者の皆さんのおかげで次々と新しい巻が生まれ、シリーズ化されました。

 あらためて読者の皆さんに心からお礼を申しあげたいと思います。

 このささやかな冊子が、生きるよろこびの小さな力となれば、この上ない幸せです。

 今後も、文章だけでなく、言葉で語り合うことを大事に生きていきたい。今月、九十二歳をむかえて、心からそう願っています。

──横浜にて 五木寛之──


五木寛之さんによる「人生のレシピ」は、

『人生百年時代の歩き方』
『孤独を越える生き方』
『健やかな体の作り方』
『疲れた心の癒し方』
『幸せになる聞き方・話し方』
『新しい自分の見つけ方』
『本を友とする生き方』
『異国文化の楽しみ方・味わい方』
『日々の歓びの見つけ方』
『百歳人生の愉しみ方』

という10冊に加え、完結記念としての特別本『五木寛之×栗山英樹 「対話」の力』の計11冊によるシリーズで、人生後半を切り拓くためのヒントを示していきます。

五木寛之(いつき・ひろゆき)
作家。1932年、福岡県生まれ。朝鮮半島で幼少期を送り、引き揚げ後、52年に上京して早稲田大学文学部露文科に入学。57年に中退後、編集者、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門 筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞、2010年『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞など受賞多数。ほかの代表作に『風の王国』『大河の一滴』『蓮如』『下山の思想』『百寺巡礼』『生きるヒント』『孤独のすすめ』など。日本芸術院会員。

ヘッダー写真/丸山光

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