「すみません」のかわりに、「ありがとうございます」を。「生きていていい」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#11 生きていていい
こどくは、統合失調症を発症し、よく謝罪のことばを口にするようになった。
「すみません」
「ごめんなさい」
このふたつは、こどくの発することばランキングのなかで上位に入っていただろう。でも、いまは、どちらのことばも、言う機会はほとんどなくなった。
なぜ、こどくは謝っていたのか。
こどくは、「生きていてはならない存在」だと、自分のことを評価していたからだ。
それはもちろん、統合失調症の症状である幻覚に、つねに「しね」と言われていたから、という理由もあるが、いちばんの理由は、こどくの自己肯定感が低くなっていたためだと思う。
統合失調症になって、自分がまわりに迷惑をかけている、と思っていた。かぞくもおともだちも、みんなこどくがきらいだと、信じこんでいた時期もあった。
いや、なにより、こどくが、こどくのことを、きらっていたのだ。
顔も、声も、性格も、なにもかも、きらい。統合失調症になって、自分が自分だとわからなくなったときから、その感情が決定的なものとなった。
そこに幻覚も相まって、こどくはつねに、「しのう」と、しに場所を探していた。いま考えるとおそろしいことだ。
しかし、かぞくが、とめてくれた。おともだちも、はなれていかなかった。
そんな、すこしずつ、まわりからのやさしさを受け取れるようになって、こどくはだんだん、体調がよくなっていった。
おくすりをたくさん飲んでいても、すごくこわがりでも、統合失調症でも、まわりのひとたちは、こどくをあきらめなかった。
「生きていていいんだよ」
そう、言われた気がした。
それからなん年もたって、こどくは、謝らなくなった。
顔も、声も、性格も、すこしずつ、自分を愛せるようになった。
こどくはこどくでいいんだと、思えたから。こどくは、こどくでよかったから。こどくがすきだから。
こどくはいま、「すみません」のかわりに、「ありがとうございます」を言うようになった。まず、だれかになにかをしてもらったことを、認め、感謝すべきだと思うからだ。そして、それは自分自身に対しても同じこと。まず自分が生きていることを認めて、肯定し、自分を愛してあげるべきだ。
この記事を読んでくれて、ありがとう。生きていて、いいんだよ。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。