だれだって、日常で自分がやっていることの偉大さに気づけないもの。「偉大なのだから」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#12 偉大なのだから
季節の移りゆく時期。この記事の読者のみなさんには、どんな印象があるだろうか。こどくにとっては、「体調不良に見舞われる時期」という印象しかない。
こどくは基本、どの季節もすきだ。春はあたたかくてすきだし、夏は青春を感じてすき。いろんなものがおいしくなる秋もすきだし、さむいさむいとこたつであたたまる冬もすき。
ただ、変わり目に関しては別である。気温の変化に、気圧の変化、環境の変化もある。健康なひとでも体調をくずしやすいのに、統合失調症のこどくにとっては、「体調ななめ」の兆しのオンパレードだ。
すきなひとなんていないと思うが、こどくは体調がわるくなるのがとてもきらいだ。だから、日常をたのしくする、あるアイデアを思いついた。
体調がななめのときは、「体調ななめ」の「ななめちゃん」が来ている、と体調不良そのものを、キャラクター化するのだ。
「体調わるい……」
と、口に出すと、なおさらその症状に拍車がかかってしまうときがある。
だから、
「今日ななめちゃん来てるわ」
と言うことで、つらい気もちを、すこしだけ、あかるくする。
同じようなライフハックで、「できたこと日記」がある。
いちにちのおわりに、今日なにもできなかった、と絶望した経験は、だれしもあるのではないだろうか。
こどくは陽性症状がおさまったあとの、いちにちじゅう動けなかった時期、いつも、そう絶望していた。そんなときに、カウンセラーさんに教えてもらったのが「できたこと日記」だ。
なんでもいいから、できたことを、ただ、書いていく。それだけのことで、こどくの自己肯定感は爆上がりした。
「家事をした」とか、「勉強した」とかでももちろんよいのだが、「起きた」や、「生きた」程度でもよい。
こどくは毎日これを続け、いちにちにおおくて20個ほど、できたことを記した。
だれだって、自分がやっていることの偉大さに気づけないものだ。生きていること、起きていること、寝ること、食べること、なんでもいい。たとえ体調がわるくて、ななめちゃんが来ていても。
この社会のなかで、人間は生きているだけで、偉大なのだから。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。