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「想像」はできなくても、「思考」はしてほしい。「考える」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#10 考える

 こどくは、ひととの関係において「思考」することは、とてもだいじだと思っている。いちど、相手の立場に立って、考えてみるのだ。
 しかし、統合失調症当事者の立場に立つことは、容易ではない。こどくたちは、ひどいときは妄想と幻覚の嵐に見舞われている。そんな状況を、経験したことがないひとがどうやって想像できるだろうか。
 でも、「想像」はできなくても、「思考」はしてほしい、と、こどくは切に願う。
 こどくは、高校に通えなくなったある日、ひとりの教師にこう言われた。
「一歩、とにかく一歩、踏みだしてみなさい。そうすれば、かならず変わるから」
 こどくは、ただ「はい」と言ってその場を去った。そして、その教師の授業は二度と受けなかった。
 一歩、踏みだしてなにか変わるくらいなら、とっくに変わっている。こどくはそう思った。その教師には、こどくが、やる気がなくて、ただだらだら生きている高校生だと思われていたのだろう。
 こどくは悲しくなった。
 病気のせいでやすんでいますと言っていたのに。つらいから、言いたくないのにそう言っていたのに。一歩とはなんだ。こどくがなにもせず、一歩も踏みだしていないとでもいうのか。
 当時のこどくは、とにかく、高校に復帰しようとしていた。そのなかでの、ひとことだった。この教師は、こどくのことを「思考」してくれていない、そう感じたのだ。
 しかし、「思考」してもらえたことも、もちろんある。
 こどくがまだ統合失調症と診断される前、こどくは電車通学をしていた。そのときに、こどくはとつぜん、体調がわるくなった。立っているのもやっとだったが、満員電車の中で、座れる席などない。すると、目の前に座っていた女性が、席をゆずってくれた。
「顔色、すごいですよ。大丈夫ですか」
 こどくはお礼と謝罪を口にしながら、席に着いた。そして、つぎの駅で降り、反対車線に乗って家に帰った。
 その女性は、こどくになにが起きているのか、わかっていなかっただろう。でも、顔色を見て、「思考」してくれて、席をゆずってくれた。こどくは彼女に、あのとき、たすけられたのだ。
 こどくは、全世界のひとびとに、「思考」してほしいと思う。そうすれば、こどくたちのような、目に見えない病気や障害を持つひとたちの、たすけになるだろう。
「考える」ことこそが、人間に与えられた、もっとも偉大なことなのだから。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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