自分のために料理を作って食べることは私しか味わえない贅沢。「ひとりごはん実験室」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加
自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。ふたりで食べるごはんも、大勢で食べるごはんも、ひとりで食べるごはんも、それぞれの楽しみがありますね。山口さんはひとりごはんをどのように堪能するのでしょうか。
※第1回から読む方はこちらです。
#11 ひとりごはん実験室
ひとりでごはんを食べると、孤食、ぼっち飯と言われることがあります。
「そう感じることもあるにはあるな」と思いつつ、でもそれって本当に孤独なの? と思う側面もあります。
なぜかといえば、私はひとりごはんの時間がけっこう好きだからです。自分のために料理を作って食べることは私しか味わえない贅沢。自分に栄養を与えている感じが、植物に水をあげている時の穏やかな気持ちと重なります。
とある2月の夜、夫が旅行に行っていて、ひとりで夜ごはんを食べました。
メニューは、お刺身3種類(タイ、ぶり、ホタテ)、ご飯、里芋とごぼうと舞茸のみそ汁です。
帰ってきてすぐに出汁用の水を沸かし、ご飯を炊飯器で炊き始め、里芋の下ごしらえに取りかかります。昆布と鰹節でとった出汁に、皮を剝いて一口サイズに切った里芋、細いのと太いのがバラバラになったごぼうのささがき、ほぐした舞茸を入れ、コトコト煮ます。その間に近所の魚屋で安くなっていたタイとぶりのお刺身と、夫がふるさと納税で取り寄せたホタテを解凍したものを、先日仙台の民芸品店「光原社」で買ってきたばかりの掛谷康樹さんの器に盛り付けました。これだけで今日はいい気分。
ご飯が炊き上がってお茶碗によそい、みそ汁に味噌を溶かして漆のお椀に盛り付けて完成。
出来上がった料理はこちらです。
おいしくいただきました、おしまい。ではなく、本題はここからです。
私が作った料理をひとりで食べる時、食卓は実験の場になります。まずはみそ汁を数口すすり、次にお刺身に箸を伸ばして、「どのお刺身がお米に合うのか」を食べながら考えました。
結論、この中では脂乗りのいいぶりが圧勝でした。家では七分づきのお米を食べているので、少し糠の香りが残ったお米にタイを乗せると淡白な味わいが消えかかってしまってあまり合わないことに気づきました。タイのお刺身は食べるのをやめ、翌日に回すことにしました。
残るはホタテです。ホタテがよりご飯に合うにはどうしたらいいものか? と考えて持ってきたのはトーチバーナー。居酒屋さんなどで炙りサバなどを作る時に使っているアレです。トーチバーナーは1000〜2000円程度で買うことができ、カセットコンロに使うガスボンベをセットすればなんでも炙れる優れもの。ホタテとせっかくなのでぶりも一緒に炙りました。
すると鼻に抜ける香ばしい魚の香りがたまらなく芳しく、より一層ご飯に合うことが判明。フライパンで焼いた鮭よりも、魚焼きグリルで焼いたちょっと焦げたくらいの鮭のほうがご飯をかき込みたくなる。そんな感じでしょうか。香りという要素が食欲を搔き立てている要素なのだなと比較してわかりました。実験成功です。
お刺身を食べ終わった後も少しご飯が残っていたので、賞味期限が切れて食べなければならない納豆を取り出し、ご飯にかけて食べました。納豆ご飯の最後の二口は、板海苔を取り出してきて四分の一に手で折り、小さな納豆巻きを作って「おいしいなぁ」という気持ちのまま食べ終わりました。あぁ、満足。
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※本連載は毎月1日・15日更新予定です。
プロフィール
山口祐加(やまぐち・ゆか)
1992年生まれ、東京出身。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(紀伊國屋じんぶん大賞2024入賞)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など多数。
*山口祐加さんのHPはこちら。