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一番大事なのは友達と話して、いい時間を積み重ねること。「友達を家に呼んで食べる時に考えていること」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。学生時代から友人を自宅に招いて料理を振る舞っていたという山口さん。長年の経験で培った、自宅で友人・知人と一緒にごはんを食べる時に考えること、することとは。
※第1回から読む方はこちらです。


#12 友達を家に呼んで食べる時に考えていること

 大学生の頃、私の家は友達の食堂と化していました。その頃から料理が好きだった私は仲良くなりたい人を見つけると、「うちに食べにおいでよ」と言って誘い、お腹を空かせた大学生は誰も断らず「行く行く!」と我が家に来ました。最寄り駅から徒歩10分の1Kアパートの6畳の部屋に週に一度ほど5人くらいで集まり、作った料理をひざを突き合わせて食べていました。

 最初の頃は楽しかったのですが、そのうち集まる人数が増え、そうすると作らなければならない量も自然に増えました。当時の私は大人数の料理を作るのに慣れておらず、時間がかかり、せっかく招いた友達とも話せず、私ばかりがキッチンで料理して「私は食堂のおばちゃんか!」と心の中が黒くなり、勝手に機嫌が悪くなることは一度や二度ではありませんでした。自分で人を呼んでいるのに、家主の機嫌が悪いなんて呼ばれる方も迷惑。これはなんとかしないといけない! と思い、10年以上の試行錯誤の結果たどり着いた、家に人を呼ぶ時のポイントは次の3つです。

①すぐに食べられるものを用意しておくこと
②メインの料理は事前に準備して、最後にあたためるだけ、切るだけにすること
③料理しているところに友達を呼んで、しゃべりながら作ること

 ある日の例を参考にポイントを解説しますね。

左上から右回りに里芋の出汁煮、にんじんのごま和え、かぶのお漬物、揚げレンコンにドライトマトのソース、菜の花のおひたし

 まずこの日は①として前菜プレートを用意しました。でも全部最初からこの日のために用意したわけではなく、家で食べていた作り置きも出します。にんじんは千切りにして茹でたもので、炒め物や汁物に入れるように作っておいた半調理品です。これにすりごまと醬油を加えただけです。かぶのお漬物は、1つ余っていたかぶを2日前に塩揉みにしてレモン果汁と和えて漬け込んでありました。最後に大葉を載せることで香りが立って風味が豊かになります。

 友達とはいえ、ちょっとばかりのおもてなしはしたいところ。そこで私が心を配っているのは彩りと、少しの非日常感です。自分のための料理にわざわざこんな盛り付けはしないのですが、誰かのためとなるとやる気スイッチが入って楽しいものです。赤、緑、白など3色程度が一皿に入っていると目にも美しい一皿になります。なので、こんなになくても3つのおかずがあれば十分です。例えば、熟したトマトにオリーブオイルと塩、葉っぱのサラダ、おいしいチーズ。こんな感じでも十分嬉しい一皿に。

朝獲れ&揚げたてのアジフライは最高のごちそう。

 この日のメインはアジフライとタッカンマリでした。タッカンマリは上記の②に当たるので、事前に作っておいてあとはあたためるだけ。でもアジフライは仕事の試作をこの日にしなければ間に合わないことに気づき、急遽きゅうきょ作ったものです。パン粉をつける間は少しテーブルから離れて作業しましたが、友達が「揚げるところを見たい!」とのこと。準備ができたところでキッチンに来てもらい、私がアジフライを揚げ、友達が小さな歓声をあげる幸せな時間が流れました。これが③に当たります。

 キッチンでの作業は孤独になりがちです。なので、しばらく時間がかかる作業がある時は、「こっちでしゃべろうよ」と声をかけて一緒に過ごすとこちらの孤独も癒やされます。人の家の台所はあまりしげしげと見てはいけないもののような気がするので、お客さんもキッチンに入るのことを意外と喜んでくれます。私が招かれる側の場合は料理の最中の小さな工夫をたくさん発見でき、そこから話が弾むことも多いので率先して、どうぞと招くのがよいです。おいしいごはんも大事ですが、一番大事なのは友達と話して、いい時間を積み重ねることなのです。

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※本連載は毎月1日・15日更新予定です。

プロフィール
山口祐加(やまぐち・ゆか)

1992年生まれ、東京出身。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(紀伊國屋じんぶん大賞2024入賞)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など多数。
*山口祐加さんのHPはこちら。

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