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「ぶっ飛んでる細胞」は自分にも? 「後からジンワリ……ぶっ飛んだ人たち」――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」
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「ぶっ飛んでる細胞」は自分にも? 「後からジンワリ……ぶっ飛んだ人たち」――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

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タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。
第1回からお読みになる方はこちらです。


#03
後からジンワリ……ぶっ飛んだ人たち

 大胆不敵とか、常軌を逸するとか、ぶっ飛んでるとか……「通常の生活や意識の中では考えつかないような振る舞いや決断など」を選択した経験のある者は私の周囲に多いと思う。いったいどこまでが「正気」でどこからが「正気じゃない」のかは、人により線引きの仕方が違うのだろうが、私は「後々考えたら、じわじわとその人の『正気じゃない』姿にぞくりとさせられる」ようなジンワリタイプの言動に「ぶっ飛んでるなぁ」と感じるのが好みかもしれない。結婚式当日、かねてから好きだった女性が誰かの花嫁になることにガマンできず、女性を奪いに教会のドアをバーンと開けて「ちょっと待ったー!」と乱入する……みたいな誰もが驚くようなインパクトある言動も嫌いではないのだが、遅効性希望というか、ひとり思い出して「私にはできないな」とか「アレはやばかったね」とか妄想したいのだ。ちなみに、あの「ちょっと待った」はうまくいったようだが、後々残された新郎やら家族やらスタッフはどうなったのだろう。そして、花嫁が「いや、無理ですスミマセン」と断り、うまくいかなかった場合は不審者としてしょっぴかれたのだろうか。ハイリスク・ローリターンすぎる。最近だとプロポーズをするために仕掛けるようなフラッシュモブなんかでも思う。さまざまな人々や施設を大々的に駆使して断れない雰囲気を最高潮まで演出されているが、「ごめんなさい」と言われたらどうなってしまうのか。サプライズが好きか苦手かを聞かれもせず、あれよあれよという間にダンスや歌を受けて、指輪の箱だか花束だかを差し出され……勢いに乗れなかったとしたら、ぞっとする。サプライズをされた側が「あんなにやってもらって、なんて冷たいヤツだ」と悪者扱いされるのは御免だ。だが無理なものは無理。
 花嫁奪取やフラッシュモブは自身の経験も知人が仕掛けられたという話も聞いたことがないのだが、じわじわくる怖さは前述したようにいくつか周囲に存在する。たとえば母方の祖父は妻子持ちでありながら祖母に惚れて、「(前妻と祖母との関係が)かぶった時期はない」と言われているが、前妻と乳飲み子に別れを告げて祖母と再婚した。仕事にかこつけ祖母宅に足しげく通い、愛をささやく祖父は「恋に夢中だった」といえばそれまでだが、通っている間の祖父はなかなかぶっ飛んでいる。祖母の出す茶や菓子に手をつけながら、何を考えていたのか……。祖父の娘にあたる叔母もレベルが高いと思う。学生時代、課題だった手芸の作品が仕上がらず、ふと部屋に飾ってあった姉(私の母)が編んだレース編みのタペストリーをスッとはがして洗濯し、課題の作品として提出したという。母(幸いながら彼女たちは学校が違ったのでバレなかった)はレース編みが得意だったため、作品は映えた。周囲からは「レース編みうまいね」「本当にすごい」と評価されても動揺せず、スンと構えていた叔母もまた、祖父の持っていた何かしらの「ぶっ飛んでる細胞」を受け継いでいるとしか考えられない。いったん洗濯機に入れるあたり、「ちょっとした若気のいたり」ではすまないような。
 「類友」という言葉があるように、この流れからすると私にも「ぶっ飛んでる細胞」は宿っているのかもしれない。配偶者として共にいる清野とおるさんも作風からして普通の世界観ではおさまらないムードが漏れ出ている。ホームレスの方々に自ら交じり宴に加わったり、不審だと誰もが寄りつかないような場所にカメラを持ってほろ酔いで取材に行き、何かに取り憑かれたような状況になっても「怖いなー」と言いながらそれをネタに漫画を描いていたりする。彼には信心深いところがあるので、霊的なものをいたずらに刺激しないマナーがある。だから何かに護られていると信じているが、配偶者になってみるとハラハラする。こんなこっちとあっちの世界のギリギリのラインで取材をしながら20年ほどエッセイ漫画を描いているのだから、ぶっ飛んでいないわけがないと悟り、今後も彼を見守りたい。
 最後にひとつ、私の「ぶっ飛んでる人ブレイク」を。はじめて「この人正気?」と感じた人は高校時代のクラスメートだった。仮にリーナとしよう。性格は思春期特有の友達以外にはそっけないクールタイプ。成績も結構良く、スポーツも人並みにこなすがいつもやや気だるそうだった。普通じゃないのは美しさ。身長もありスタイルはバツグン、グラマーと噂されており、何よりも顔立ちが整っていて、誰もが「きれい」とうらやましがる存在だった。教師まで見惚れていたとか。あれこれ禁止されていた学内でも、ちょっとメイクをしてはちょっと叱られていたのを覚えている。そんなリーナが席替えで私の後ろの席になった。授業中、プリントを渡すために後ろを向いたとき、目に入った光景が今でも忘れられない。リーナは最後尾の席であることを利用して、ペンケースに忍ばせた毛抜きで手の無駄毛を抜いていた。あっけに取られて固まる私の手からプリントを受け取りながら、「やぁだ、見ないで」と苦笑いするリーナ。今!? 化学の時間に!? 毛抜き!? とまったく授業内容が頭に入ってこなかったっけ。

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プロフィール
壇蜜(だん・みつ)

1980年秋田県生まれ。和菓子工場、解剖補助などさまざまな職業を経て29歳でグラビアアイドルとしてデビュー。独特の存在感でメディアの注目を浴び、多方面で活躍。映画『甘い鞭』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『壇蜜日記』(文藝春秋)『たべたいの』(新潮社)など著書多数。

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NHK出版の書籍編集部が、多彩な執筆陣による連載小説・エッセイ、教養・ノンフィクション読み物や、朝ドラ・大河ドラマの出演者や著者インタビューなどをお届けします。新刊情報も随時更新。ときどき編集部裏話も!