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言い訳を「良い訳」に?「ほんのちょっとだけ後悔……高い買い物」――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。
第1回からお読みになる方はこちらです。


#02
ほんのちょっとだけ後悔……高い買い物

 言い訳。都合が悪かったこと、失敗したこと、そうしなきゃならなかったことなどの理由や事情を説明する行為……なのは重々承知しているが、あまりにも言い訳が過ぎると今後の信頼関係にも影響してくるので注意しながら行使したい。言い訳をする展開において、「相手に納得されるような良い言い訳」なんてほぼ存在しないと思うが、言い訳しなくてはいけない際はできるかぎり手短に、謝罪を中心に、被害者ぶらないようなスタイルでのぞみたい。多少無茶苦茶というか、それはちょっと……という言い訳をしても、その者のキャラクターやそれまでの相手との関係性、その者が失敗してもリカバリーできる何かしらの能力があったりすれば「まったく、仕方ないヤツだな」と許されたり、「そういうところがツンデレで可愛い」とか言われたりするのだが。ちなみに、世界的に有名な某女性モデルは、現場入りに大遅刻をした際、「ごめんなさいね。下着がなかなか決まらなくて」と言ってのけたらしい。現場スタッフのための大量の差し入れを携えながら。その後撮影は進んでいったというが、そりゃ許す空気になっただろうな、というのは理解した。
 この某モデルとは真逆の意味で「耳を疑う」言い訳も実際に聞いたことがある。学生時代に付きあっていたボーイフレンドの言い訳だった。私たちはおそろいでネックレスや指輪を購入して身につけるという、いかにもな恋人的儀式をする、よくいるカップルの一組だったと思う。週末は遊園地、水族館などにも行き、地域限定プリントシールを並んで撮り、「どうして分かってくれないの!?」とありきたりな痴話げんかをしたり仲直りをしたり、試験前は「会えなくて寂しい」とメールを送ったり、ペアルックに照れたりするような量産型タイプと考えていただいて問題ない。私にもそんな時代があったのだ。そんなカップルらしいカップル行為を継続していたある日、彼がお揃いのネックレスをしなくなった。数回目のデートにて、私が指摘するまえに彼は「先日部屋の掃除と模様替えをしていたら、小物を結構バラバラにしてしまい、あちこちから今発掘している」と言う。引き出しや物入れの中はごちゃついていたから、ネックレスも混じってしまったかと想像し、それ以上は追及せずにいた。しかし、待てど暮らせどネックレスは彼の首についてこない。べつに怒ってはいないし、なくしたら新たなお揃いをまた買えばいいと思っていたので、あるタイミングで「なくした?」と聞いた。すると彼は「なくしてない!」と返し、こう続けた。「あの部屋で最後に見たんだから、あの部屋のどこかにある。だからなくしてない!」と。外で落としたら見つからないが、部屋の中ならいつか見つかる、だってテリトリーだし、という理論だったようだ。私は「そっかぁ」と言い、もうこのネックレスを話題にすることはやめるかな、と心に決めた。お揃いでアクセサリーをつけて、片方がなくしてしまったときに相手にうまく伝える言い訳が知りたかった。明日は我が身というし、逆上されても困るし。
 前置きが長すぎたが本題に入る。高かったけれど買って良かった(または行って良かった)と思う品物や体験があるからには、当然逆の感想もある。しかし、私もまた言い訳をして、後悔していないからねと強がりながら保管している品がある。数年前、とある撮影で知り合った女性ヘアメイク殿から割引価格で美顔器を購入した。ヘアメイク殿はたいそう美しき年上の姉さまで、撮影支度のたびに美顔器で顔をマッサージしたり、丁寧にケアの説明をしてくれたりした。アシスタントに付いていた姉さまもこれまた美しく、餅は餅屋だなぁと意味不明な感想を抱いた。商品を押しつけるような売り方ではないことにひかれて、ちょっと奮発したのだ。これで自宅でも、と意気揚々と美顔器を使っていたが、なんだか「コレジャナイ感」が日増しに強くなっていった。そのうち、使う頻度も減り……美顔器の現状は聞かないでいただけるとありがたい。
 こうなった背景には、ちゃんと理由がある。撮影支度のたびに姉さまたちが「痛いけど効くからね~」とか「ガンバ、もうちょいだから」とか言ってくれたから美顔器による多少の痛みにも耐えられたし、「良い感じ~」と褒められてムフフとなっていたから気持ちよく使えていたのだ。これが一人だと、ただ痛み強めの美顔器と闘う中年になってしまう。美しく専門知識が豊富な女神が圧倒的に不在だから、若干マゾヒストな私と美顔器の仲がすすまない(すすまないって、何だ)! というのが私の言い訳である。応援や合いの手がなかったら、皿回しだってカラオケだってなかなか虚しいぞ、と言いたい。
 容姿重視の話なんじゃない? と思われたら、このご時世どんな反撃にあうかはわからぬが、美顔器と私の関係性に限っては「優しくも専門知識をもつ美しき女王さま不足」という言い訳、いや、〝良い訳〞を公言し、後悔はしていないが高いもん買っちまったエピソードとしたい。

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プロフィール
壇蜜(だん・みつ)

1980年秋田県生まれ。和菓子工場、解剖補助などさまざまな職業を経て29歳でグラビアアイドルとしてデビュー。独特の存在感でメディアの注目を浴び、多方面で活躍。映画『甘い鞭』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『壇蜜日記』(文藝春秋)『たべたいの』(新潮社)など著書多数。

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