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どんなにこわくても、生きのびたから、大丈夫だよ。「生きのびたから」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#20 生きのびたから

 こどくにはむかしから、「こわいもの」がたくさんあった。
 幽霊やUMA、妖怪や怪談、宇宙人。こどもならだれでもこわいだろう、と思われるかもしれないが、こどくのこわがりかたは尋常ではなかった。ひとりでトイレに行けないことはしょっちゅう。夜中に起きると金縛りに合うんじゃないか、と不安で不安で逆に眠れなくなった。くらいところに行くのがこわいのはもちろん、日中でもトンネルなどには近づかなかった。
 しかし、こどくのかぞくやおともだちはそうでもなかった。かぞくは妖怪や宇宙人がだいすきで、よくそれらに関するテレビ番組を見ていた。おともだちも、こどくがこわがりなのを知ってか知らずか、怪奇小説を「これおもしろいよ」と言って貸してきて、こどくを恐怖のどん底へたたき落とした。
 そんなこどくだったが、いつのころからだろう。「こわいもの」はだんだんと減っていった。こどくがおとなになったからだろうか。いや、なにかちがう。
 統合失調症になって、「こわいもの」はオカルトよりも、現実世界のほうになった気がする。海がこわい、山がこわい、盗聴されている気がする、ひとに見られている気がする、自分をまわりがころそうとしてきていると思う、など、こどくが体感する「妄想」の症状が、こどくにとって「こわいもの」となっていったのだ。
 病状が回復してきたいま、妄想の症状もだいぶ減った。でも、それでも思う。
 統合失調症のほうが、こわかった。
 闘病生活のほうが、幽霊や怪談よりも、よっぽどこわかった。
 だから、そんなこわいときを生きのびたこどくは、とてもえらいと思う。24時間ホラーゲームのなかで生きていた、とこどくはよく言うが、本当にその通りだ。
 なんでもこわがっていたあのころのこどくへ。どんなにこわくても、生きのびたから、大丈夫だよ。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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