見出し画像

統合失調症になったのは自分だけじゃない、そう思えたから。「孤独じゃない」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
※#0から読む方はこちらです。


#21 孤独じゃない

 たいへん喜ばしいことに、こどくには「一生のおともだち」と呼べるひとがなんにんかいる。本当におともだちたちには感謝の意を伝えたい。というより、常日頃伝えている。
 こどくがかかった統合失調症という病気は、妄想や幻覚などの陽性症状を伴い、人間関係にまで影響を及ぼすことがある。それは、当事者にはどうしようもないことだ。
 たとえば、目の前にいるおともだちが、「自分のことをころそうとしてきているのではないか」、という妄想が起こるとする。すると、おともだちにたいする態度はもちろん変わってくるだろうし、そのおともだちを信じることもできなくなるだろう。そして、統合失調症当事者は、その妄想を「本当のこと」だと信じ込んでしまうのだ。
 そんなこんなで、統合失調症当事者は孤立しやすい。でもなぜこどくにはおともだちがいるのかというと、まあ、運である。そういったこどくの体調を鑑み、気を使ってくれて、引かないでいてくれた、そういうおともだちがいた、というだけだ。だから、こどくにも、孤立する未来はあり得たのだ。
 しかし、こどくは、ある点では、まだ孤立していた。
 こどくは、おなじ病気だというひとに、会ったことがなかったのだ。
 もちろん、道ですれ違うひとや、それこそ病院、病棟に統合失調症のひとはいただろう。でも、「私、統合失調症だよ」と教えてもらったことがなかったのだ。
 その点において、こどくはずっと、孤独だった。
 でも。
 こどくは、VTuberとして活動をはじめた。すると、この活動が大きな反響を呼んだ。その声たちのなかに、「私も統合失調症です」と言って、こどくのファンになってくれたひともいた。
 そして、こどくは、たくさんのひとのご支援のもと、「もりのへや」を作った。「もりのへや」とは、メタバース空間上の統合失調症当事者の居場所だ。そこには、現在60名以上もの統合失調症当事者がいる。
 統合失調症になったのは、こどくだけじゃない。そう思えた。
 こどくは、孤独だったあの日々から、ようやく抜け出した。
 そんないまのこどくには、守りたいものがある。こどくのまわりで、たのしそうに笑っている、みんなだ。そのなかには、この記事を読んでいる君も入る。
 こどくはもう、孤独じゃない。

#22を読む
#20へ戻る
※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

※「本がひらく」公式Twitterでは更新情報などを随時発信しています。ぜひこちらもチェックしてみてください!