手を差し伸べてくれたひとに、手を伸ばして。「大丈夫」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#2 大丈夫
統合失調症の症状で、頭のなかに幻聴が鳴り響いていたとき、駅のホームで蹲ってしまったことがある。動けなくなって、しんどくて、でも家から離れた駅にひとりぼっちだから、頼るさきもなくて。自分の右腕をできるかぎり左腕でひっぱって、幻聴に耐えていた。
そのとき、とおくから、
「大丈夫」
という声が聞こえた。
顔を上げると、女性が、心配そうにこどくをのぞきこんでいた。
そこでようやく、こどくは、自分が心配されている、と気がついた。それまで、幻聴に必死になって、まわりに自分がどう見られているかなんて気にしていなかった。
「大丈夫です、すみません、すみません」
こどくは意味もなく謝りながら、その場を去った。そのときは、「大丈夫」ってなんだろう、自分は大丈夫じゃないように見えたのだろうか、と思っていた。
でも、いまはわかる。こどくは、助けを求めればよかったのだ。
手を差し伸べてくれたひとに、手を伸ばせばよかったのだ。
こどくは、そのとき、統合失調症だという自覚もなかったうえに、そんな病気が存在すること自体知らなかった。
でも、もし、差し伸べてくれた手をつかんでいたら、違う未来が訪れていたかもしれない。はやく病院につながり、はやく支援を受けられていたかもしれない。
それから約6年。この間、声をかけられることはなかった。つぎは、こどくが声をかける側かもしれない。
大丈夫、と。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。