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すぐに生き方は変えられないから。「ゆっくりと」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#3 ゆっくりと

 こどくは、なにをするのも遅い。それはむかしからだった。
 さかのぼること22年。まだ1歳のあかんぼうだったころ、まわりが駆けまわっているなかで、こどくはまだ、ずり這いをしていた。ようやく歩きだしたのは、2歳近くになってからだった。字を書けるようになるのははやく、物覚えはよかったのだが、手を動かすのが遅いせいで、試験時間のうちに途中までしか解答できず、テストで満点をとれなかったこともあった。自分より足の遅い子は見たことがなかったし、登校中もおともだちにしばしば置いていかれた。
 だから、どんなときも、こどくはあせっていた。すべてにおいて大急ぎに急いでやって、やっと人並みのスピードだった。
 そんな人生を歩んできたからか、こどくはつねに全力少女だった。全力を出さずにはいられなかった。
 しかし、統合失調症にかかって、お医者さんから、こう言われた。
「80%くらいで生きていきましょうね」
 統合失調症の回復には、とにかく「がんばらないこと」が重要になってくるらしい。そう言われてから、こどくはなんとか80%くらいで生きていこうとしたが、再び体調をくずしてしまった。全力で生きることしか知らないこどくに、80%で生きることはむずかしかったのだ。
 それから、1年ほどがたった。いまは、体調は落ちついている。
 なぜか。
 慣れたのである。
 やすむことに、慣れたのだ。なにもしない、ぐーたらすることに、慣れた。それまで、いちにちベッドの上で動けないと、なにもしないことに罪悪感を抱いていたが、「まあいっか」と思えるようになった。
 でも、その境地に至るまでに、1年、いや、発症してからと考えると、6年かかった。
 だからこそ、声を大にして言いたい。そんなにすぐ、生きかたは変えられない。ならば、時間をかけて、ゆっくり、慣れていけばいいのだ。
 そう、ゆっくり、ゆっくりと。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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