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ガッカリとニヤニヤ、どちらもわたし。想定外、予想外だったこと――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。
第1回からお読みになる方はこちらです。


# 13
想定外、予想外だったこと

 想定外、予想外と聞くと、どうしても悪いほうに物事が展開する想像をしてしまう。想定外の質問をされてしどろもどろになったとか、予想外の出費で次の給料日まで生活がピンチ状態とか。どちらも経験したことがあり、今でも思い出すとゾゾゾとしてしまうからかもしれない。想定外の質問は、新人時代にある番組のオーディションを受けている最中に飛んできた。面接担当者から「番組の企画で整形プロジェクトが持ち上がってるんだけどさぁ、できる?」と聞かれた。いきなり整形と言われても、内容も知らずに「はい、やります!」とは言えず、「整形ですか? 抵抗はあまりありませんが、どんなレベルの整形でしょうか?」と聞いた。いわゆるプチ整形ならばと、新人に対する無茶にも応えられる範囲で考えていた。しかし現実は違った。「現段階では海外(整形大国と言われるあの国)で何か月かかけてあの国のアイドルみたいになる感じかな~」と返答されたので、こりゃ別人になってしまうと危惧して辞退した。不思議と親の顔が浮かんだし、さすがに当時所属していた事務所にも「やりなよ、チャンスじゃん」と勧められたら、それはそれで後に引けなくなりそうで相談できず、オーディションは落選。縁がなかったんだと自分に言い聞かせた。
 予想外の出費のほうは、学生時代にたまたま立ち寄った雑貨店で、当時流行していた「携帯電話デコレーションとストラップ販売」のコーナーで発生した。携帯電話を思いのままにデザインしてデコレーションしてもらい、ストラップも購入できるとなると……食いついてしまった。デコレーションはいわゆる女子が好むキラキラ系ではなく、ちょっとクールなメタルカラーにそのとき大好きだったゲームのロゴマークを入れてもらい、ストラップも注目していた新進気鋭のアーティストが作った逸品(可愛い動物たちが緊縛されているというなかなかカオスなもの)を選んだ。まるで「中二病」みたいな携帯電話を生み出してしまったが、個人的には大満足だった。そこまでは良かった。数秒後トータルの金額を提示され、現実に引き戻された。手持ちのお金では足りず、一緒にいた友人にいくらか借金をした苦い記憶。翌々日にちゃんと返したが、「せっかくだから」の欲に溺れ、財布の中身の確認もせず身の丈に合わないことをしたのを恥じた。ストラップは携帯電話から外して今でも持っている。愛着と自分への戒めの象徴として。
 このように、ハッピーさに欠けるエピソードが想定外と予想外にはくっついてくるような日々を過ごしてきた。話のネタになり、原稿料をもらって成仏させることができているためまんざらでもないが。もちろんガッカリエピソードだけではない。ここからは個人的にニヤニヤしてしまう「想定外」を記しておく。私は5~6年ほど前からコーンスネークという蛇を飼っている。数ある蛇の種類の中ではおとなしく人慣れしやすい、ペット向けの蛇として有名だ。主食はネズミやトカゲなどで、冷凍から解凍したものでも生き餌でも食べる。15年前後生き、体長は120~150センチぐらいまで育つらしい。最初に購入したピンク色のコーンスネーク「ヘビコ」はメスで、130センチ強のおとなしい個体として今も我が家にいる。片手で体をくるりと巻いて、もう片方の手でヘビコのいるケージの中を掃除できる。暴れたり攻撃したりもほぼない。巻きつく力が強いくらいだ。べたべたすることはできないが、人に慣れるものだと感心しながら暮らしてきた。蛇は想像以上に可愛いなとヘビコは感じさせてくれる。病気になったこともあったが、治療できるものだったのでこれからも長生きしてほしい。
 ヘビコを迎えて2年ほど経過したある日、某有名爬虫類専門家が主催するイベントにトークコーナーのゲストとして呼ばれた。ゲスト控え室にて主催者の専門家に挨拶をしたら、差し入れと称してプリンカップくらいの大きさの容器に入れられた幼体のコーンスネークを「よかったら……」と渡された。偶然にも色味も柄もヘビコにそっくりで、急に恋心に似た何かが芽生えた。差し入れに蛇。さすがは爬虫類イベント。予想をはるかに超えるおもてなしに応えないのはゲストじゃないね! と変なスイッチが入り、「わぁ、ありがとうございます」とキッチリいただいた。「がりちゃん」(ガリみたいなピンク色なので)と命名し、ヘビコとは違うケージで飼育を始めた。そして気づく。どうもヘビコみたいなおとなしいムードがない。何かあるのかと危惧して動物病院で調べてもらったところ、ガリちゃんはオスだった。個体差もあるようだが、オスはなかなかやんちゃで活発だという。確かに片手で持てばジタバタするし、掃除もままならない。しかし男の子だったのか、やんちゃ小僧かしょうがないなと想定外案件にニヤニヤ。餌をあげると「俺の! 俺の!」とガブッと勢いよく食らいつき、威嚇しながら飲み込むさまも「誰も取らないよー、もうしょうがないなー」とニヤニヤ。どんどん成長しても「男の子だもんねぇ」とニヤニヤ。令嬢みたいなおしとやかなヘビコと下町で育ったやんちゃ小僧みたいながりちゃんは、私の素敵な「想定外」だ。

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プロフィール
壇蜜(だん・みつ)

1980年秋田県生まれ。和菓子工場、解剖補助などさまざまな職業を経て29歳でグラビアアイドルとしてデビュー。独特の存在感でメディアの注目を浴び、多方面で活躍。映画『甘い鞭』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『壇蜜日記』(文藝春秋)『たべたいの』(新潮社)など著書多数。

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