日常風景も、輝いて見えるようになった。「眩しい日常」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#28 眩しい日常
こどくは、体調がよくなってきてから、バスやタクシー、電車、自転車など、移動手段が増えた。体調が悪いときは自転車がぎりぎりだったが、ひとがおおいところや騒がしいところに慣れて、だんだんと、「ひとといること」にも慣れてきたのだろう。こどくにとって、それはすごいことだった。
そして、移動手段が増えたということは、移動できる範囲も広がったということだ。はじめは病院にひとりで行く程度だったのが、かぞくと旅行にまで行くことができるようになった。いまだに行けないところは多々あるが、陸路で行けるところには、かろうじて挑戦できている。
そして、移動手段が増えたことにより、外に出ることがたのしくなった。とくにこどくがすきな移動手段はバスだ。
近所のバス停から、たとえば病院に向かうとする。すると、こどくの近所の歩いて行ける範囲は見覚えのある景色だが、それが次第に見たことのない景色へと変わっていく。それがなんとも新しく、見ていてたのしいのだ。
電車やタクシーでもおなじ状況になることはあるが、それでもやっぱりバスがすきだ。いちばん後ろの席をこどくは「特等席」と呼んでいるが、特等席から見る景色は何物にもかえがたい。
そして、窓から見える風景が、じつはすべてホログラムでできていて、実際に存在するものじゃないのではないか、という妄想も、こどくのなかではおもしろい。窓がいちめんディスプレイになっていて、実際にバスが動いているのではなく、仮想空間のなかで動いているのだ。
体調がよくなって、そんな日常風景も、輝いて見えるようになった。こどくはこれからも、眩しい日常のなかで生きていきたい。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。