アドレナリンは、たいせつな味方だ。だからこそ。「侮らない」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#39 侮らない
アドレナリンが出ている、という表現を耳にすることがある。アドレナリンとはホルモンの一種で分泌されると……と語りだしてしまうと、読んでいる君も語っているこどくもつかれてしまうので、かんたんに言うと、緊張したり、興奮したりすると、アドレナリンが作用して、心臓がばくばくして、たのしくなってしまうのだ。アスリートは、このアドレナリンが出ているおかげで、つかれを忘れたり、いたみを感じなくなったりする。そしてそれを試合などに活かしているという。
しかし、こどくはアスリートではない。だからこう言いたい。
アドレナリンを、侮ることなかれ。
こどくの日常でアドレナリンが出るタイミングは、主にふたつ。ひとつめは、おともだちと遊んでいるとき。ふたつめは、生配信中や動画編集中など、VTuber活動中だ。
おともだちと遊んでいるとき、いくらなかよしでも、こどくは一定以上の緊張をしてしまうことがある。たとえば、はじめて行くお店や、よく知らない街。そんなところへ行くと、緊張する。ここで、アドレナリンの出番だ。実際にアドレナリンが出ているのかどうか、医学的にはわからないが、こどくの「アドレナリンが出ている」状態は、おともだちと遊ぶことを、たのしいものにしてくれる。ときには、緊張さえも、忘れさせるほど。おともだちと遊んでいる、緊張する、アドレナリンが出る、たのしい。この連鎖で、こどくは体力が尽きるまで、遊ぶことができるのだ。
生配信中や動画編集中も、おなじことが起きる。VTuber活動は、緊張ととなり合わせだ。生配信中は、それはもう特に。そこでも、アドレナリンが出る。そして、異常な興奮に、たのしいと思う。こどくはここでもアドレナリンの連鎖で、体力が尽きるまで活動することができている。
しかし、ここで前述のことばを思いだしてほしい。
アドレナリンを、侮ることなかれ、と。
こどくはこれまで、アドレナリンのおかげで、たくさんたのしい思いをした。しかし、つぎの日になってみるとどうだろう。つかれて、動けなくなってしまうのだ。これはアドレナリンを侮った代償だ。頼りにしすぎて、つかれはててしまう。こどくはいままで、何回もおなじ目にあってきた。
だから、いまでは、「アドレナリンは出るもの」として、興奮していると感じるとおくすりを飲んだり、ゆっくりやすんだりするようにしている。
アドレナリンは、こどくのたいせつな味方だ。たのしいを、もっとたのしいにしてくれる。だからこそ、侮らない。侮って、力尽きるよりも、前に。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。