そういうこともあるんだと、知ってもらえたら。「切に願う」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#38 切に願う
こどくは、体調がわるいときは、スマホを触らないように、気をつけている。理由は3つある。
ひとつは、スマホを触ることで、無為に時間が過ぎてしまうことがあるからだ。こどくとこどくのかぞくは、よく、スマホを開いてはYouTubeを見たり、SNSを見たりして時間を奪われている。こどくたちはこの現象を、「時間吸い」と呼んでいる。時間吸いは、しょっちゅう起こる。メールを見るためにスマホを開いたのに、うっかり動画を見てしまったり、まんがを読んでしまったり。このエッセイを読んでいる君にも、覚えがあるだろうと思う。しかし、無為に過ぎ去った時間も、人生の一部だ。そのあいだ、あれをすればよかったこれをすればよかったという後悔もある。それでも「時間吸い」されていたあいだはやすめたのだとこどくは思うようにしているが、とはいえほんのちょっぴり、やってしまったという思いが募る。
ふたつ目の理由は、こどくも絶賛闘病中の統合失調症にまつわることだ。統合失調症の陽性症状のひとつに、SNSやスマホに監視されているのではないか、と思いこんでしまう症状がある。こどくはさいわいすくないほうではあったが、それでもスマホの情報をだれかにぬきとられているのではないか、という妄想があった。そんな妄想が出ているとき、スマホを触ってしまうとこわくてこわくてたまらなくなる。それを避けるために、こどくはときどきスマホから遠ざかるようにしている。
さいごの理由も、統合失調症が原因だ。統合失調症の症状が重いとき、あたまのなかに大量の情報が流れて止まらないときがある。音楽が3曲同時にあたまのなかを駆け巡ったり、まったく関係のないシーンや状況がいくつも浮かんできたり。さながら「感情のジェットコースター」に乗っているかのようなのだ。そんなときに、SNSでそのようすを投稿してしまうと、こどくのなかではつながっている事象も、ほかのひとから見ると突飛な発言に見えるだろう。こどくは、こどくのまわりのひとを巻き込みたくないために、そういうときはスマホに触れずSNSから距離を置くことにしている。ただし、文字に起こすとすっきりすることもあるので、そういうときはメモ帳アプリや日記などに書いている。
こどくはながい闘病生活のなかで、ゆったりとそんなことを学んできた。失敗も、たくさんした。統合失調症の症状は多岐にわたり、ひとによっても違う。だから、ひとりひとりのただしいスマホとの距離感があるだろう。こどくの場合は、たまたま上記の理由で、はなれることがよい、という結論に落ち着いた。統合失調症当事者は、まわりのひとはもちろん、自分すらも信じられなくなることがある。だから、そういうこともあるんだと、知ってもらえればと切に願う。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
※1月13日はお休みです。次回は1月20日の予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。