マガジンのカバー画像

小説・エッセイ

298
人気・実力を兼ね備えた執筆陣によるバラエティー豊かな作品や、著者インタビュー、近刊情報などを掲載。
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔とんびとカラス〕 新井見枝香

※当記事はエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第17回です。第1回から読む方はこちらです。  ゴールデンウィークは仕事で福井県の温泉地に滞在していた。そこかしこに広がる田んぼは、苗を植えたばかりの状態である。その辺りから愉快な蛙の鳴き声が聞こえるものの、透き通った水を覗き込んでも、姿は見えない。そうかと思えば、ぎょっとするほど近くに、白鷺が黙って佇んでいる。都内でこんなに巨大な鳥がふらふらしていたら、たちまち人だかりができるか、捕獲されるだろう。道端に生える雑草の合間

季節の行事をアップデートしてみたら――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。NHKテキスト『きょうの料理 ビギナーズ』でリアルな生活を綴って人気の連載エッセイ「とりあえずお湯わかせ」が「本がひらく」に場所を変え、リニューアルスタートしました! 料理や日常生活のあれこれに加え、気になった本や映画、旬の話題も取り上げる予定です。ますますパワーアップする柚木ワールドをお楽しみに! ※当記事は連載の第2回です。最初から読む方はこちらです。 #2

他人という謎へ向かうのが社会学者――「マイナーノートで #02〔自己への関心・他者への関心〕」上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 自己への関心・他者への関心 「社会学者は他人に興味を持つ人、アーティストは自分にしか興味を持たない人」というわたしの発言に、写真家の長島有里枝さんからクレームをもらった。  長島有里枝さん、90年代のはじめにセルフヌードとファミリーヌードのポートレートで写真界に

オリーブ少女ではなかった私――「熊本 かわりばんこ #02〔忘れがたい春と募金箱のこと〕」田尻久子

忘れがたい春と募金箱のこと  1980年代はじめ、私が中学生の頃に『オリーブ』が創刊された。若い方は知らない人もいるだろうが、私と同世代でこの雑誌のことを知らない人はあまりいない。世の中にオリーブ少女を生み出したファッション誌だ。田舎の貧乏な中学生にとってファッション誌は興味の対象ではなかったが、高校に通うようになると、同じ制服を着ているはずなのにまわりとはどこか違う雰囲気を醸し出す女の子が、身の回りでは見たことのないような雑貨や着飾った少女たちの写真が載っている『オリーブ