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連載

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ミステリー小説や食エッセイから、小中学生向けの教養読み物まで、さまざまな興味・関心を刺激する作品を取りそろえています。
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#本

暮らしがある小さな空間から世界を見る――「熊本かわりばんこ」#16〔梅雨時の庭〕田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 梅雨時の庭  日が長くなってくると、もうすぐ夏至だなあと思う。空はいつまでも明るく、午後8時近くになってもまだ夜という感じはしない。夏至の前には梅雨がきて、陽の光を雲がさえぎってしまうけれど。  庭の植物は日を追うごとに育ち、特に

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「読解力」と「読む力」 《「読む」ってなんだろう?――認知科学から考える》第2回

言語の理解と思考の発達に焦点を当て、「学び」の本質について研究を行ってきた、慶應義塾大学教授の今井むつみさん。本連載では、私たちの誰もが日常で当たり前のようにしている「読む」という行為を手掛かりに、そのことを掘り下げて考えます。 *第1回から読む方はこちらです。 私の子ども時代の読書 前回は、小学生の算数の文章題に焦点を当て、「読解」とは何かを考えてみた。今回は、より広い視点で「読む」ということについて考えてみたい。そもそも「読む」は「読解」と同じ意味なのだろうか?  「人

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白川で暮らすカモの親子、そこに咲くザクロの花――「熊本かわりばんこ #15〔運動として街を歩くその前に〕」吉本由美

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 運動として街を歩くその前に 前にも書いたが、家から歩いて20分ほどのところに阿蘇の根子岳から始まり熊本の街を二分して有明海に流れ出る一級河川、白川がある。どこでもそうだが川堤というものは空気が瑞々しく空は広く、そばを通るだけでも気分が

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幸せな夜だからこそ、世界の有りように思いを馳せる――「熊本かわりばんこ #14〔藤の花のもとで〕」田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 藤の花のもとで 冬眠していたヤモリが帰って来た。  ずいぶん暖かくなってきたなと思ったある日、白玉(うちの白猫)が勝手口を見つめていた。もしやと思いその視線の先を確認すると、見覚えのある姿形のヤモリがガラスの向こう側にいる。冬になるま

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渋谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔いくらと思い〕 新井見枝香

※当記事は1話読み切りのエッセイ連載の第25回です。どの回からもお読みいただけますが、第1回から読む方はこちらです。日比谷から渋谷の書店に移った新井見枝香さん、連載もリニューアル再開です。  渋谷の書店で働くようになって、まず最初にぶち当たる困難が昼飯だとは思わなかった。限りある休憩時間に公園通りを行ったり来たりするも、食指が全く動かない。どこにでもあるチェーン店は悔しいし、キラキラした目新しい店は、制服の上にパーカーを羽織っただけの私には、敷居が高かった。私が食べたいのは

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一筋縄ではいかない“愉しみ”――「熊本かわりばんこ #13〔春の動物園探訪〕」吉本由美

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 春の動物園探訪〈動物園のこと〉  花粉飛び交う中、ナマケモノに会いに行った。動物園へ行くのはひさしぶりだ。このところ冬に逆戻りしたような天気が続いて、怠け者がナマケモノに会いに行くぜよ、と決めていた3月19日の初公開日からだいぶ経っ

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コロナ禍がもたらした休日、そこで触れたひとの営み――「熊本かわりばんこ #12〔記憶の海を旅する〕」田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 記憶の海を旅する  正月を迎えたばかりのような気がするのに、もう梅の花が咲いているのを見かけるようになった。春はすぐそこ、早いものだ。  数年前までは、元日以外はほとんど店を開けていた。大晦日は営業こそしていなかったが、お客さんたち

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熊本が誇る「食のオアシス」と「天才クリエイター」――「熊本 かわりばんこ #11〔味噌天神にて〕」吉本由美

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 味噌天神にて より子さんの笑顔にひかれて  前回は思い出に耽ってばかりいたためになかなか味噌天神まで辿り着けなかったが、今回は味噌天神からのスタートである。時間と書くスペースはたっぷりある。前回思わせぶりで終わった〈画廊喫茶ジェイ〉に

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日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔終わりとシンプルさ〕 新井見枝香

※当記事は1話読み切りのエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第24回です。どの回からもお読みいただけますが、第1回から読む方はこちらです。  その町には、同じ店名のケーキ屋とパン屋とカフェがあった。どれも昔からあって、地元の人に愛されている人気店だ。私はそのケーキ屋の四角いスイートポテトが大のお気に入りだった。しかし数か月ぶりに立ち寄ると、ケーキ屋だけでなく、同じ名前の店の全てがシャッターを下ろしている。地元の人に訊ねると、それらを経営する会社の社長が大きな負債を抱え

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森の中ではいのちがつながっている――「熊本 かわりばんこ #10〔柚と落ち葉――冬の到来〕」田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 柚と落ち葉――冬の到来  朝起きたら台所に柚が枝ごと置いてあり、一筆添えられていた。  今年は柚(ゆず)がたくさんなったので お鍋のお供にどうぞ。  手紙があるってことは手渡されたわけではなさそうだと思い、家人に訊いたら、縁側に置いて

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元スタイリストが愛するホームセンターと名選手を生む名門校――「熊本 かわりばんこ #09〔味噌天神まで〕」吉本由美

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 味噌天神まで <秋の庭事情>  庭が晩秋の装いになるのを待って草毟(むし)りをした。ひさしぶりの庭の手入れ、草たちも夏場の意気軒昂から「早く毟ってくださいな」という枯れ草顔に様変わりしている。草毟りといえば普通は夏やるべきものだが、私

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日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔肉じゃがと文化〕 新井見枝香

※当記事は1話読み切りのエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第23回です。第1回から読む方はこちらです。  肉じゃがの肉は「豚」である。それはすき焼きの肉が「牛」で、ジンギスカンの肉が「羊」であることと同じくらい、当たり前のことだ。近所のスーパーでは豚肉売場がいちばん大きい。それは、豚の生姜焼き、肉野菜炒め、豚汁と、食卓に登場する頻度が高いからに違いない。しかし先日、肉じゃがを作って皆に振る舞う機会があり、私の常識が崩壊した。食卓を囲んだ中に島根出身と京都出身の人がい

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引っ越しておもう祖父のこと、幼い頃のこと――「熊本 かわりばんこ #08〔家の記憶、ひとの記憶〕」田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 家の記憶、ひとの記憶  新しく住まった家は生類の気配が濃い。  夜になると、勝手口の定位置にヤモリが現れる。灯りにあつまるさらに小さな生き物をじっと待っている。時間もほぼ同じでだいたい10時半くらい。ガラス戸の向こう側にいるので、小さ

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日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔マダムと黒猫〕 新井見枝香

※当記事はエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第22回です。第1回から読む方はこちらです。  旅先の温泉街で喫茶店に入った。急勾配な坂の途中にあり、ともすれば看板に気付かず通り過ぎてしまう、ひっそりとした佇まいだ。趣味の合う知人の勧めがなければ、薄暗い地下へ降りるのを躊躇ったかもしれない。背筋の伸びたマダムにコーヒーを注文し、サンドイッチを待つ。ひとり客の私は、マダムとのちょっとした世間話が嬉しく、聞かれたことに答えたり、常連客を交えた話題に口を挟んだりした。本当は、

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