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ミステリー小説や食エッセイから、小中学生向けの教養読み物まで、さまざまな興味・関心を刺激する作品を取りそろえています。
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連載 シン・アナキズム 第5章 グレーバー (その1)

本を書いていた みなさまおひさしぶりです。たいがいにせい、というくらい間が空いてしまった。「連載どうなるんですか」「グレーバー篇が楽しみです」などと、半年くらい前まではときどき言われていたが、最近はそれすらなくなって読者も忘れているらしい。まことに月日は百代の過客ってとこですな。  さっき確認したところ、前回「第4章 ポランニーとグレーバー(その7)」が2022年5月公開だから、これを書いている2023年3月からすると、10カ月も前だ。何をしていたかというと、実はウクライナ

「おもしろいから書くのではない、書いているからどんどんおもしろいことが増える」——くどうれいんさんによる「日記の練習」がはじまります

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。自身が創作する上でとても大切な要素になっているのが「日記」です。そんなくどうさんにとって日記とは何なのでしょうか。 「日記の練習」をはじめます 十代後半、すべての歌がわたしのことを歌っているように感じた時期があった。風が吹いても魚が跳ねても自転車からへんな音がしても同級生が捻挫しても、それがわたしの人生のとびきりの出来事だと本気で思った。毎日書き留めておきたいことがありすぎて、それなのに、書

キャラクター料理をもっと美味しく――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は「キャラクター料理」と「おいしい」の両立についての考察です。 ※当記事は連載の第24回です。最初から読む方はこちらです。 #24 推しと美味 祖師ヶ谷大蔵がテレビ番組に取り上げられ、その中で紹介されたウルトラマンカフェが気になったので、ママ友と子どもたちと一緒に行ってみた。物販には新旧たくさんのウルトラマンや怪獣が並び、飲食スペースでは、パスタやカレーも楽

大衆社会から、新・階級社会へ――「マイナーノートで」#24〔百貨店の終焉〕上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 百貨店の終焉 今年の1月31日にふたつの百貨店が閉店した。ひとつは東京渋谷のシンボルだった東急百貨店渋谷・本店、もうひとつは北海道は帯広にある道内資本最後の百貨店、藤丸が創業122年の歴史を閉じた。百貨店の研究をしてきたわたしには感慨がある。  百貨店の凋落は

空っぽの猫ベッド、もう誰も落とさない私の本――「熊本かわりばんこ」#24〔拾われ猫フジタが生きた14年〕田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 拾われ猫フジタが生きた14年 沈丁花がつぼみをつけている。前の家のベランダで生き残り、引っ越したときに連れてきたのだが、地植えをしたらしっかりと根付いた。椿の花も一輪だけ開いていて、昨年より少し早い気がする。そういえば今年は正月早々に

センチメンタルですがなにか~大杉栄の監獄体験――「サボる哲学 リターンズ!」#1 栗原康

我々はなぜ心身を消耗させながら、やりたくない仕事、クソどうでもいい仕事をし、生きるためのカネを稼ぐのか? 当たり前だと思わされてきた労働の未来から、どうすれば身体をズラせるか? 気鋭のアナキスト文人・栗原康さんの『サボる哲学』(NHK出版新書)がWEB連載としてカムバック。万国の大人たちよ、駄々をこねろ! 社会の歯車から解放されました  こんにちは。ごぶさたしております。みなさま、お元気でしょうか。『サボる哲学』を刊行してから、はや一年半。ふたたび、「リターンズ」と銘うっ

ついに「ずるくなるチャンス」が訪れたときにとった行動とは? 「ずるいなぁ、自分」と思ったこと――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #11 「ずるいなぁ、自分」と思ったこと まわりは大人だらけのなかで一人っ子として生まれ、共働きの両親に甘やかされがちでお祖母ちゃん子……とくれば、「ずるく生きる」術を学ばなくとも生きられる可能

手巻き寿司の適量を追い求めて――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は読んでいるとおなかがすくこと間違いなし、手巻き寿司のお話です。 ※当記事は連載の第23回です。最初から読む方はこちらです。 #23 ちょうどいい量 この連載が四年分まとまった初エッセイ『とりあえずお湯わかせ』に詳しく書いたのだが、コロナ禍を経て、人を呼ぶことはもちろん、手作りの料理を振る舞う機会はなくなり、よって節分に恵方巻きをつくって、配り歩く習慣は消滅

百坪宇宙から脱して大自然へ――「熊本かわりばんこ」#23〔阿蘇へのドライブ、父のこと〕吉本由美

  長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 阿蘇へのドライブ、父のこと 道路の除雪や屋根の雪下ろし、度重なる停電や断水の対応など北国の皆さんのご苦労に比すれば“雀の涙”ほどでしかないけれども、ここ熊本も寒い日が続いている。水道管の凍結防止や万が一破裂した場合の処置、窓・床の防

胡蝶蘭をともに育ててくれた「おひとりさまプラン」――「マイナーノートで」#23〔フラワーボーイ〕上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 フラワーボーイ 今朝、窓辺の胡蝶蘭が1つ、開花した。  いつのまに蕾をつけ、いつのまにふくらんでいたのだろう? 咲いたときには、いつもびっくりする。おや、おまえ、ここにいたのかい? すっかり忘れていてごめんね、と。  わが家の胡蝶蘭はちょうど12歳だ。年齢を忘

「将来」を描かなかった理由はここに。「芸能関係者の考える“新人はこんな感じ”ではなかった新人時代」――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #10 芸能関係者の考える「新人はこんな感じ」ではなかった新人時代 ある女性タレント(私が20代後半のときにこの話を聞いた際、彼女は40歳手前だった)が、少し年上の夫との価値観の違いによる、たび

おせちとガレット・デ・ロワと銭湯と――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は2023年のお正月についてのお話です。 ※当記事は連載の第22回です。最初から読む方はこちらです。 #22 新年の朝湯 新年はいつものように義母の家で迎えた。駅からまあまあ遠い住宅地。しばらく歩くと、通り沿いに、だいぶ間隔をあけてコンビニが二軒だけあるというような環境だ。  古い木造の日本家屋は、玄関やお風呂はキンキンに冷たいが、そのぶん、こたつ周りはとろ

神も仏も信じないわたしの宗教遍歴――「マイナーノートで」#22〔棄教徒〕上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 棄教徒 クリスマスの日に、アメリカの友人からアニメーションのe-cardが送られてきた。本人が若かったらきっとこうだろうな、と面影をしのばせる美少女が「聖夜」を歌うクリスマス・キャロルの動画だった。記憶がいっきょに子ども時代に引き戻された。  北陸の地方都市に

熊本の水源、祖父との想い出――「熊本かわりばんこ」#22〔変わる視点、そこから見えるもの〕田尻久子

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 変わる視点、そこから見えるもの ここ最近は異国に出勤している。小人国のリリパット、巨人国のブロブディングナグ、空飛ぶ島のラプータ……ガリバーが旅した国々に。  翻訳家・柴田元幸さんの新訳で、『ガリバー旅行記』が朝日新聞夕刊に2年近く連