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ミステリー小説や食エッセイから、小中学生向けの教養読み物まで、さまざまな興味・関心を刺激する作品を取りそろえています。
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2020年1月の記事一覧

「愛と性と存在のはなし」第5回 〔『ボヘミアン・ラプソディ』に見るマジョリティの希望〕 赤坂真理

 sometimes I wish I’d never been born at all.  そう、まったく生まれないほうがよかった。  影も形も。  こんなに孤独なら。  この世界に属せない、疎外感だけなら。  存在するということの、まったき孤独。   孤独だから、誰かを求めるのか。  求めても孤独。  本当の望みなど、知らないほうがよかった。  本当の自分をわかりたいだなどと。  かなわないなら。  手に入らないなら。  このふたつに分かれた世界に、望むものが、ないのな

「思考入門 “よく考える” ための教室」第8回 〔テクノロジーでアタマをよくする!?〕 戸田山和久(文と絵)

お待ちかね、「思考入門」の第8回目ですよ。連載もいよいよ大詰め、今回のテーマは「テクノロジー」。みなさんのまわりにあるテクノロジーをうまく使いこなせば、アタマがばっちり良くなるというお話です。「テクノロジー」って何のこと? それは読んでのお楽しみ。気に入ったら「スキ」してくださいね~~ テクノロジーの2つの特徴  受験シーズンたけなわだ。アタマのよくなる薬があったらいいなあ、と思っている受験生もいるだろう。ほんとうにそういう薬があったらいいね、と私も思う。自分も飲みたいし、

「愛と性と存在のはなし」第4回 〔草食男子とは誰か〕 赤坂真理

草食男子という誤認 「草食男子」という言葉がある。  恋愛や性に消極的な男子、という意味に使われることが多いだろうか。元気がない男と同義にされるなど、ネガティブに使われることも多い。   そもそもは「草食動物のように優しく草を食んでいるような男子」というポジティブな意味でつけた、と、名付け親の深澤真紀は語っている。初出は2006年である。いずれにせよ、一時の流行語であることを超えて、今では定着した感のある言葉だ。  この言葉は、単純な事実誤認をはらんでいる。とわたしは思ってき

評伝 『ECDEAD あるラッパーの生と死』第1回 「あるリスナーの回想(前書きにかえて)」 磯部 涼

2018年1月に57歳で他界したラッパー、ECD。私小説家でもあり社会運動家でもあった彼の生涯を、『ルポ 川崎』が注目を集めたライター・磯部涼が描く。2000年代初頭からECDと親交を深め、併走してきた著者にしか描けない画期的評伝! その夜、ダンスフロアで  ECDについて考えると思い出す光景がある。  高速道路の高架に空を覆われた通りの、雑居ビルの地下にある小さなクラブ。薄暗い店内はふたつのスペースに仕切られていて、左半分がバー、右半分がダンスフロアになっている。平日の深

長編ミステリー小説 「境界線」第6回 中山七里

鬼河内珠美と真希竜弥が身元を入手した経路を追っていた笘篠と蓮田は、〝名簿屋〟を裏稼業としている五代良則への事情聴取を行うも、芳しい成果を得ることができなかった。五代の関与を怪しみつつも、名簿屋に情報を売った出所をつかむべく、笘篠たちは膨大な個人情報を取り扱う役所や金融機関を探ろうとしていた。 境界線 第6回連載第7回へ進む 連載第5回へ戻る プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミス

エッセイ「日比谷で本を売っている。」第1回 〔土の香りとレトルトのパスタソース〕 新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話。  私は都内でひとり暮らしをする、39歳の会社員だ。こうして物を書くこともあるが、基本的には、書店に立って本を売っている。  3年前に台東区の実家を出て、ひとり暮らしを始めた。縁もゆかりもない東久留米を選んだのは、単に不動産屋に勧められたからである。その頃、新しい書店のオープンに携わっていて、ハムスターのカラカラみたいに、働いても働いても、終わりがなかった。毎日終電で帰っては、這うように出勤する日々。なぜそんな

「思考入門 “よく考える” ための教室」第7回 〔「三人寄れば文殊の知恵」だといいんだけど……〕 戸田山和久(文と絵)

みなさん、あ・け・ま・し・て、おめでとうございます。年が明けたところで気持ちもあらたに「思考入門」7回目。前回は、私たちの脳ってそもそも論理的にはできていない、というクラ~イお話になっちゃいましたねえ。でも大丈夫。それを乗り越える方法ちゃんとありますよ。今回はそのうちのひとつについて、戸田山さんきっちり話してくれます。「それって、どんな方法?」答えはかんたん、「みんなでいっしょに考える」こと。「そのためには、どうすればいいの?」はい、くわしく知りたい人は、以下をじっくり読んで

「なぜいま、「幕府」を問うのか?」 〔後編〕 東島 誠

前回に引き続いて歴史書ブームを分析しながら、過去に3度、20年ごとに中世史がブームになってきたことの意味を考えます。 ※本記事は、NHK出版より刊行予定のNHKブックス、東島誠『「幕府」とは何か』から、「はじめに」と序章「いま、なぜ中世史ブームなのか、そして、なぜあえて幕府論なのか?」を先出しでお届けするものです。 室町幕府ブーム?  大政奉還百五十周年、明治維新百五十周年の記念行事の一方で、いまふたたび中世史ブームだという。それも、よりによって室町幕府が熱い。呉座勇一『応

「なぜいま、「幕府」を問うのか?」 〔前編〕 東島 誠

近年、一般向けの歴史書が何度目かのブームを迎えています。その中で問われないままに終わっている最大の存在「幕府」について、根本から問い直してみましょう。 ※本記事は、NHK出版より刊行予定のNHKブックス、東島誠『「幕府」とは何か』から、「はじめに」と序章「いま、なぜ中世史ブームなのか、そして、なぜあえて幕府論なのか?」を先出しでお届けするものです。 歴史学に何が可能か「歴史学に何が可能か」。これは、二〇一二年、つまり東日本大震災の翌年に與那覇潤と語り合った、雑誌対談のタイト

長編ミステリー小説 「境界線」第5回 中山七里

天野明彦を騙っていた男は、日頃から指に接着剤を塗布し、指紋が自宅などに残ることを徹底して避けていた。笘篠と蓮田はもちろん、証拠を必死に探す鑑識にも焦りのムードが漂う。なぜ男はそれほどまでに身元を隠すのか? そんなとき、天野を騙っていた男の自宅から接着剤の被膜らしきものが発見された。 境界線 第5回連載第6回へ進む 連載第4回へ戻る プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがす

長編ミステリー小説 「境界線」第4回 中山七里

笘篠刑事の妻・奈津美の身元を騙っていた鬼河内珠美は、かつて陰惨な殺人事件を起こした両親を持ち、世間に対して肩身が狭い思いを抱えて生きていた。珠美が奈津美の身元を入手した経路を探っているさなか、十指を失い、口元を著しく損壊された他殺体発見の一報が入る。この遺体もまた他人の身元を騙ったものだった。 境界線 第4回連載第5回へ進む 連載第3回へ戻る プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミ

長編ミステリー小説 「境界線」第3回 中山七里

妻の身元を騙っていた女が風俗嬢だったことがわかり、その足取りを追う宮城県警の笘篠と蓮田刑事。女は死の直前にふたりの男を接客しており、そのうちのひとりに聞き込みを行うも身元の特定には至らず。焦れる気持ちを抑え、笘篠と蓮田はもうひとりの男を捜すのだった。 境界線 第3回連載第4回へ進む 連載第2回へ戻る プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。斬新な視点と

長編ミステリー小説 「境界線」第2回 中山七里

遺体は妻・奈津美のものではなく、まったくの別人だったーー。宮城県警捜査一科警部・笘篠誠一郎は妻の身元を騙った女の素性を探ろうとするが、なかなかたどり着けずにいた。一体、誰が、何のために。強い憤りを胸に、さらなる捜査を進める。 境界線 第2回連載第3回へ進む 連載第1回へ戻る プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。斬新な視点と華麗などんでん返しで多くの

長編ミステリー小説 「境界線」第1回 中山七里

〈東日本大震災で行方不明になっていた妻の変死体が発見され、しかも前夜まで生きていた〉。さまざまな疑問を胸に遺体安置所へ急行した宮城県警捜査一科警部・笘篠誠一郎は、思わぬ事実に直面する――。2018年1月刊行の長編小説『護られなかった者たちへ』のその後を描く、魂を揺さぶる社会派ミステリー小説。 境界線 第1回連載第2回へ進む プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」