1000万超再生 リュウジの「至高の炒飯」、異次元人気の理由
連載3回目は、バズるレシピで知られる料理研究家のリュウジさん(37)。2020年にYouTubeで配信した「至高の炒飯」は自身のレシピの中でもトップ の人気。再生数は1千万回を超えています。ヒットの理由と、炒飯への思いを語ってもらいました。
炒飯は家の火力で十分。大事なのは「香り」
──リュウジさんが2020年2月にYouTubeで配信した「至高の炒飯」のレシピ動画は、再生数が1千万回超え。単純計算で、日本人の10人に1人が見たことになります。人気の理由は?
アクセスはまだまだ伸びています。「至高の炒飯」は僕のバズレシピの中でもトップ。日本で一番見られている炒飯レシピ動画だと思います。理由は簡単。みんなが一番食べたい炒飯のレシピがYouTubeになくて、僕が最初に家庭で作れるようレシピ化したからです。
人は、自分の想像と合ったものを食べたときに「おいしい」と感じます。では、「炒飯」といったときに、多くの人が思い浮かべるものは何か? 断トツで「町中華の炒飯」です。あとは「お母さんの炒飯」「お父さんの炒飯」が少数います。
ところが、その「町中華の炒飯」を忠実に再現するレシピがYouTubeになかった。僕より前に、「味の素を使え」なんていうレシピ、なかったでしょう? 町中華では普通に使ってます。
「家のガスコンロは火力が弱いので、店のような炒飯は作れない」と思い込んでいる人は多いですが、火力は家ので十分。ただ、一つだけ家庭で店と同じようにできないものがある。それは「油」です。
町中華と家庭の普通の炒飯とで、おいしさを分かつポイントは「香り」です。店では油を使いまわしていて、酸化した油が香味状態になっている。その風味をおいしく感じているわけです。
でも、一般家庭にそうした油はないので、僕の「至高の炒飯」ではしょうがのみじん切りを加えて「香り」を出し、店の炒飯に近づけています。
──具材は豚バラと卵、ねぎ、しょうが。家にあるものや簡単に手に入るものばかりです。鶏ガラなどの中華スープの素も使いません。
僕がレシピを届けたいのは、料理を作らない人たちや、料理が好きでない人たち。こうした人たちに、いかに料理を作ってもらうか、料理の楽しさを知ってもらうかを考えてきました。「簡単・爆速レシピ」を出してきたのは、そのためです。
だから、炒飯のレシピも、例えば材料に「チャーシュー」なんて書いたらアウト。チャーシューを常備している家なんてないし、スーパーでも売っていない店がある。売っていたとしても質がピンキリなので、人によって仕上がりの味が変わってしまう。そんなレシピは僕的には失格。だれが作ってもおいしくできるようでないと意味がありません。
鶏ガラの中華スープの素を使わないのは、鶏炒飯でないから。他のスープの素もその味が強く出てしまうので使いません。その代わり、「味の素」で具材の風味をたたせています。
──「炒飯は激戦区」で「一番荒れる」ともYouTubeで話しています。
男が最初に作りたい料理は「炒飯」か「ペペロンチーノ」。だから炒飯動画は伸びるし、激戦区にもなる。
加えて、炒飯には「炒飯論」というのがあって、卵を先に混ぜてはいけないとか、混ぜたほうがいいとか、しょうゆは入れるとか、入れないとか、化学調味料を使うのは邪道だとか……色々ある。だから荒れやすいんです。
僕自身は、「あれもいい」「これもいい」という感じで、特にこだわりとかありません。料理は「こうあるべき」と固く考えすぎると、変にこじらせ、料理の可能性も狭めてしまうので、ゆるく構えたほうがいいんじゃないかと思いますね。
炒飯の奥深さを知った、20代のサラリーマン時代
──リュウジさんは高校生のときに、体調を崩した母に作った「鶏むね肉のソテー」が喜ばれて料理好きに。その後、ホテルやイタリア料理店、高齢者施設などに勤務。趣味でツイッターに発信していたレシピがバズったのがきっかけで料理研究家になります。
20代前半のサラリーマン時代はお金がなかったので、しょっちゅう炒飯を作っていました。炒飯って、ご飯と卵だけで作れるから安くすむ。そして、このとき炒飯の奥深さを知りました。
炒飯は、納豆だろうと、キムチだろうと、何を入れたってうまい。入れられない食材ってほぼないんじゃないかな。調味料も、塩だけでもいいし、しょうゆを入れてもうまい。可能性は無限大で、それは全ての料理に通ずる。なので、炒飯をクリアすればほかの料理にも応用していけますよ。
──レシピは毎日1~5点考え、未公開のストックが1500点もあるとのことですが、どう発想するのでしょうか? レシピが浮かばず行き詰まることは?
特別なことはしていません。冷蔵庫やスーパーにあるものを見て、まずメインの食材を決めます。例えば冷蔵庫に消費期限の迫っているものがあれば「それ」って感じ。次にその食材と何の食材を組み合わせるかを考え、さらにどんな調味料をからめるかを考える。
さっきの炒飯の話と同じで、組み合わせは無限なので、レシピが思いつかなくて行き詰まることはないですね。なぜ行き詰まるのか、逆にわからない。仮に万能ダレとか新しい味つけを一つ開発したとしたら、そこから200種類ぐらいは新しいレシピができます。
──日々の料理のツラさを訴える声の中には、「献立が浮かばない苦しさ」もあります。
それは、家族のために作るからでしょう。僕は「料理は自分のために作ってください」と、いつも言っています。料理は楽しんで作ることがなにより大事なので、自分が食べたいものを作ることです。
──炒飯は、手軽に作れるイメージがある一方、「パラパラでないといけない」といった、ハードルの高さや苦手意識を持つ人もいます。
僕は、実家で油っこいべちゃっとした炒飯を食べたりもしたし、家庭で残り物を使ってばーっと作ったりするような炒飯も好きです。事前に「これは、しっとり炒飯です」と説明すれば、みんなおいしく食べるしね。要は、メディアが「炒飯はパラパラ」って煽りすぎたんですよ。
結局、イメージの問題なので、言い方の工夫で解決できるはず。町中華とかの中華系のものは「炒飯」と呼び、家庭で作る、中華にとらわれないものは「焼き飯」とする。そうすれば、イメージが裏切られることがないので、おいしく食べられるでしょ。
「料理の正解」は三つ星シェフではなく、「自分の中」にある。
▼再生回数が1000万回を超える、料理研究家が本気で作る「至高の炒飯」『Chinese-style fried rice』
ときどき僕のことを「料理人」と勘違いする人がいるのですが、僕は「料理研究家」。「料理人」と「料理研究家」は全然違います。
旧来のテレビを中心とした料理チャンネルでは、高名な料理人や料理研究家が出てきて、「これが料理の正解」みたいにレシピを教え、それを見ている側の人たちも有り難がっていただく。そんな感じの上下の図式がありました。でも、それは古い。
自分の舌の好みを知り、自分にとって本当においしい料理を作れるのは、自分しかいません。「料理の正解」は「自分の中」にあるんです。だから、三つ星シェフの料理がその人にとっての正解とは限らない。
「料理人」は自分の「料理の正解」を提供するプレーヤーであって、「料理研究家」はその人の中にある「料理の正解」にたどりつかせるためのトレーナーです。
だから「至高の炒飯」も「僕の中の正解」であって、おいしいと思う人もいるだろうし、そうでないと思う人がいるのも当然。
で、「おいしくない」「違う」と思った人は、違和感を覚えた部分を「自分の好み」に合わせてカスタマイズしてほしい。それで「自分にとっての正解」に到達できたら、僕は嬉しい。僕を通過点にしてもらって全然いいんです。
いまの料理って、情報を食べている部分も大きい。自分の舌を信じて、まずは作ってみてください。炒飯だって、なんだっていい。自分の食いたいものでいいっすよ。
←第2回(ギャロップ・林健さん)を読む
第4回(佐藤樹里さん前編)に続く→
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プロフィール
料理研究家 リュウジ
1986年、千葉県生まれ。「今日食べたいものを今日作る! 」をコンセプトに、Twitterで日夜更新する「簡単・爆速レシピ」が話題を集め、2018年からYouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」で料理動画を公開。SNS総フォロワー数は850万人。2020年『リュウジ式 悪魔のレシピ』、22年『リュウジ式至高のレシピ』(共にライツ社)で料理レシピ本大賞を受賞する。著書の売り上げ部数は累計140万部。
取材・文:石田かおる
記者。2022年3月、週刊誌AERAを卒業しフリー。2018年、「きょうの料理」60年間のチャーハンの作り方の変遷を分析した記事執筆をきっかけに、チャーハンの摩訶不思議な世界にとらわれ、現在、チャーハンの歴史をリサーチ中。
題字・イラスト:植田まほ子
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