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「本当にうまいチャーハンは『これこれ!』としか言いようがない。漫才も同じ」林 健(漫才師)

「どんなチャーハンを食べてきましたか?」──そう尋ねると、人はときに饒舌じょうぜつになります。「なんてことのない日常」に寄り添った料理を通じて語られる、愛着のある情景。そこに、その人の素顔や原点が見えてきます。
連載第2回目は、チャーハンが好きで、芸人のチャーハン・サークルを立ち上げ、チャーハンのYouTubeチャンネルも持つ、漫才コンビ「ギャロップ」の林健さん(44)。チャーハンと漫才の共通点を尋ねると、奥深い答えが返ってきました。



家ではウスターソースを早めにチャーハンにかけていた

チャーハン・サークルの初期メンバーの和牛・川西さんと。
YouTube「チャーハン林」の第1回目。 画像: OmO/チャーハン林

チャーハン・サークルを始めたのは10年くらい前ですね。後輩の和牛の川西に電話して、「晩ご飯、なに食べた?」って聞いたら「ポテトチップスとチャンジャ」って答えが返ってきて。和牛がまだ芽の出る前のころで、栄養を取ったほうがいいと思って中華に誘いました。

そこで、二人ともチャーハンが好きだということがわかって、「ラーメンは、こんなの好きとか、あそこの店はうまいとか、よく話をするけれど、チャーハンは意外としない。こんなにおいしいのに、なんでやろ?」って話になりました。テレビでも「ラーメンは視聴率が取れる」と、よく特集されますが、チャーハンはラーメンに比べるとあまり取り上げられません。その理由は、あとで話しますが、チャーハンのYouTubeを始めてすぐわかりました。

最初の2年くらいは川西と二人でチャーハンを食べ歩いていて、そのあと、かまいたちの濱家、アキナの秋山、タナからイケダの池田、今井らいぱち、の4人が加わりました。だれも知らんようなところで、少人数のサークルを勝手に立ち上げても面白いかなくらいの感覚でした。

——林さんが、そもそもチャーハンにはまったきっかけは、家のチャーハンがあまりおいしくなかったからだと話す。林さんは1978年、大阪の下町・西成区天下茶屋で生まれ、3人きょうだいの末っ子として育った。

オカンは料理上手で、唐揚げとかポークチャップとかおいしいのですが、チャーハンだけはイマイチでした。具は、玉ねぎ、にんじん、ピーマンがたいてい入っていました。栄養を考えてだと思います。それ以外は、そのときどきの冷蔵庫の残りもので、味つけは塩・胡椒だけ。チャーハンというより焼き飯だった。

で、僕はウスターソースは「最初からかける派」でなくて、「途中からかける派」なんですが、オカンのチャーハンには早めにかけて食べていました。えっ? 東京ではチャーハンにウスターソースをかける習慣がない? 大阪では焼き飯とかに普通にかけますよ。

中3のとき「チャーハンよりラーメン」のイメージが覆された

「らーめんハウス直ちゃん」のチャーハン作り。
調理の過程や音もチャーハンの魅力の一つと、林さんは言う。 画像: OmO/チャーハン林

——中学3年のとき、林さんは「チャーハンのおいしさ」に目覚めた。 

塾の帰りに、友だちに誘われて、家の近くのラーメン屋「満風麺」に行きました。友だちが「チャーハンがおいしい」と言うので、ラーメンとチャーハンの両方を頼んで、いざ食べてみると、ラーメンもおいしいけれど、チャーハンもほんまにおいしくて。衝撃を受けました。

親に連れられ、それまでも外でチャーハンを食べることはありましたけれど、「家のチャーハンとは違うな」と思っていたものの、どこも似たような感じで、ラーメンに代わって注文したいほどのものではなかった。そのイメージが、覆されたのです。ラーメンよりもおいしいチャーハンがあるんだ、と。

——さらに20歳を過ぎたころ、「らーめんハウス直ちゃん」のチャーハンに出合い、チャーハンにはまる。

「らーめんハウス直ちゃん」は、当時は「らーめんコーさん」という名前でした。実家の近くなんですが、チャーハンがおいしいと、だれかに教えられ行きました。店に入ると、お客さんがみんなチャーハンを頼んでいて、次々と運ばれる。ジャーッ、カンカンというチャーハンを調理する音を聞きながら、まだか、まだかと気持ちが高まりました。

そして、目の前に運ばれ、口にすると、「なに、このうまさ!?」。止まらなくなりました。普段はラーメンとチャーハンを頼んだときには、麺が伸びちゃうので必ずラーメンを先に食べるのですが、このときばかりはチャーハンを一気に食べてしまいました。
僕はリピーター気質なので、それから「直ちゃん」のチャーハンは何十回と食べてきました。

——このころ、漫才師としての歩みを始めていた。高校生のとき「漫才師になる」と決め、卒業後、吉本興業の養成所・NSCに22期生として入る。同期には南海キャンディーズ・山里亮太さん、ウーマンラッシュアワー・村本大輔さん、スーパーマラドーナ、ダイアンなどがいる。

高校生のとき、大阪の(心斎橋筋)2丁目劇場のテレビ番組があって、毎回、かじりついて見ていました。当時は、千原兄弟さんやメッセンジャーさんが活躍していました。「漫才師になる」と決め、親に言ったときには反対されましたけれど、驚きのほうが大きかったようです。

というのも、僕は小さいときからかわいげのない子で。教室でも、クラスの真ん中で、みんなを笑わせるような陽気なタイプではなかった。むしろ、見た目のいい、ちょっとひょうきんなヤツが、女の子たちを笑かしているのを見て、「そんなおもろいか、これ?」って斜に構えていました。ダサいと言えば、ダサいんすけど、いま思い返しても本当に面白くなかった。ただ「そんな場所でそんなこと思わなくていいやんか、過去のオレよ」といまは言いたいですね。

本当においしいチャーハンは言葉にできない

林さんと和牛・川西さんの二人ともが好きな「らーめんハウス直ちゃん」で、
チャーハンに舌鼓を打つ。
画像: OmO/チャーハン林

——2003年に毛利大亮さんと漫才コンビ「ギャロップ」を結成。名だたる新人賞を次々受賞し、2018年にM-1の決勝に進出。そして、2019年12月、YouTubeチャンネル「チャーハン林」を立ち上げる。
初回に向かったのは、チャーハンにはまるきっかけになった「らーめんハウス直ちゃん」。初期メンバーの和牛・川西さんと訪ねるが、チャーハンを映像で伝えることの難しさを知る。

「直ちゃん」は川西も好きで、チャーハン・サークルの出発点にもなった店です。チャーハンのYouTubeを始めたのは、ラーメンやカレーと違い、やっている人が見当たらなかったから。しかし、それにはそれなりの理由があることにすぐ気づかされました。テレビで特集されないのも、同じ理由だと思います。

まず、チャーハンは、ラーメンと違って、プレーンなものは見た目があまり変わらない。ラーメンだと麺に載せる具やスープの色とかで、バリエーションがすごくあるんです。具もひと目でわかる。ところがチャーハンは、外国人を知らないおじいさんが実際に見て、みんな同じに見えてしまうのと同じくらい違いがわかりにくい。

——加えて、「味の表現」もチャーハンは難しいと、林さんは言う。

キムチチャーハンとか、カレーチャーハンみたいな、少し特殊なチャーハンはいいんですけれど、王道のプレーンなチャーハンは味の違いを伝えるのがすごく難しい。「直ちゃん」なんか何十回と通っているのに、そのおいしさの真ん中にあるものを伝える言葉がいまだに見つかりません。

「うまみ」とか「甘み」とか「口の中でどうした」とか、味覚を伝える表現は色々ありますけれど、どの言葉を当てても、あの独自の「うまさ」をつかまえられない。もう「これこれ!」としか言いようがないんです。とにかく食べてみてください。

家での材料費にプラス数百円でプロの味が食べられる、チャーハンは偉大

取材の後、林さんはチャーハンを食べに。向かったのは、もちろん「あの店」。
写真:林さん提供

——「チャーハン林」のYouTubeは4年目に入った。おいしい店を食べ歩くだけでなく、料理をあまりやらずにきた林さんが、四苦八苦しながらチャーハン作りにもチャレンジ。「食べられなくはない。でもおいしいとは言えない……」と首をかしげる姿が印象的だ。
笑い飯の哲夫さんをはじめ腕におぼえある芸人が登場してチャーハン作りを披露したり、プロの料理人に家と同じ調理器具で店のチャーハンを作ってもらい食べ比べてみたり、「家チャーハン」をおいしくする探究も愚直に行っている。

プロの料理人にIHで店のチャーハンを作ってもらったり、冷凍チャーハンを店の厨房で作ったら味は変わるかなど、色々企画してきました。「家チャーハン」とプロの作る「店チャーハン」は、当たり前ですがあらためて別ものと感じます。違いは、やはり「火力」と「鍋振り」「中華鍋」「油」にあると思います。

そして、つくづくチャーハンが偉大と思うのは、家と店との間でこれだけの差があるのに、町中華で600円とか700円くらいで食べられることです。家でも店でも食べる料理に、焼肉とか寿司とかありますが、外で食べると家の何倍もの値段がして、軽く万札がとぶこともあります。ところが、店のチャーハンは、家で作る材料費にプラス数百円の値段で食べられるんですよ。むちゃくちゃ良くない? そこもチャーハンの大好きなところです。

——林さんを魅了する、チャーハンと漫才には共通点があるのだろうか。

店のチャーハンも漫才もリピーターが大事な点は一緒です。コンビニにもリピーターはいますが、そういうのではなく「直ちゃんのチャーハンじゃないと」「ギャロップの漫才じゃないと」という、取り換えのきかない、「これこれ!」と言わせる「うまさ」。それを追求している点は同じではないかと思います。

チャーハンを作るときの、ジャーとか、カンカンとか、ジュワーッとかいう音は、漫才の出囃子と一緒。胸が高鳴り、そして鳴り止んで、目の前に出てくる瞬間といったら──。
あぁ、チャーハンの話をずっとしていたら、むしょうに食べたくなってきました。このあと、行ってきます。


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写真: 吉本興業提供

プロフィール
漫才師 林 たけし

1978年、大阪市生まれ。1999年、NSC大阪校に22期生として入校。2003年12月、毛利大亮さんとギャロップ結成。08年、ABCお笑い新人グランプリ・最優秀新人賞、上方漫才大賞・優秀新人賞、09年、NHK上方漫才コンテスト・最優秀賞などを受賞。18年、M-1グランプリ決勝進出。19年、YouTubeチャンネル「チャーハン林」を開設。23年、THE SECOND初代王者に輝く。

取材・文:石田かおる
記者。2022年3月、週刊誌AERAを卒業しフリー。2018年、「きょうの料理」60年間のチャーハンの作り方の変遷を分析した記事執筆をきっかけに、チャーハンの摩訶不思議な世界にとらわれ、現在、チャーハンの歴史をリサーチ中。

題字・イラスト:植田まほ子

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