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総理大臣がお忍びで街を市場調査したら――中山七里『総理になった男』第2回

「もしあなたが、突然総理になったら……」
 そんなシミュレーションをもとにわかりやすく、面白く、そして熱く政治を描いた中山七里さんの人気小説『総理にされた男』待望の続編開始!
 ある日、現職の総理大臣の替え玉にさせられた、政治に無頓着な売れない舞台役者・加納慎策は、政界の常識にとらわれず純粋な思いと言動で国内外の難局を切り抜けてきた。次なる相手は長らく続く景気低迷。決定的な打開策を見出せない政府に対し、慎策はまずは“現場”をリサーチしにいく――


 三日後の日曜日、慎策と円谷は銀座ぎんざ晴海はるみ通りを歩いていた。まるうち署で公用車から降り、ザ・ペニンシュラ東京の前を横切って銀座三越みつこし方向へと向かう。クリスマス商戦の真っ只中で、どの店舗にも緑と赤の装飾が目立つ。
「最初の視察地に銀座を選ばれたのは少し意外でした」
 円谷は、どこか浮かれた様子だった。
「選挙期間中に有楽町ゆうらくちょう界隈かいわいで昼食をる場面を撮らせることはありますが、それ以外ではあまり立ち寄らないですよね」
 国会会期中は議員会館に詰めている者も多く、三度三度の食事は議事堂内の食堂で事足りる。密談を兼ねた会食には赤坂あかさかの料亭を使い、土曜日から月曜日は地元に帰る。こうしたローテーションを繰り返していればプライベートで銀座に繰り出す機会は少なくなって当然だ。
「しかし総理。高所得者の消費行動というのは景気浮揚の参考になり得るのでしょうか」
「銀座と言うとハイソなイメージが強いかもしれませんが、実は庶民的な街でもあるのですよ」
 以前、銀座には三大新聞他様々な企業の本社があったことからオフィス街の側面も兼ね備えている。セレブ御用達ごようたしの高級店が軒を並べている一画があると思えば、サラリーマン向けの居酒屋がガード下でにぎわっている。慎策も役者を目指していた頃は、有楽コンコース内の大衆酒場に入り浸っていたことがあるのだ。
「では、そういう庶民的な店を回りましょう」
 円谷はずいぶん乗り気のようだが、慎策はいくぶん肩を落としがちになっている。
 目論見もくろみが狂った。
 本当は珠緒を誘い、視察を兼ねて逢瀬おうせを楽しむつもりだったのだ。今すぐファースト・レディにはなってくれないが破局した訳でもない。それならたまには顔を合わせたいではないか。
 慎策の落胆も知らず、円谷はきょろきょろと街並みを興味津々の様子で眺めている。普段であれば公用車で通り過ぎるだけなので物珍しいのかもしれない。
 それにしてもと思う。
 円谷は厚い外套がいとうに帽子とマフラー姿。慎策も同様の服装なのだが、ともにマフラーで口元を隠している。いくら冬とは言え、この格好は怪し過ぎはしないか。それに比べてSPたちは普通のサラリーマンとして風景の中に溶け込んでいるから大したものだ。
「人相というのはですね、目元よりは口元を隠した方が判別しにくいものなんです」
 円谷の理屈には頷けるものの、人相が分からなければいいというものでもない。口元を隠した男が連れ立って歩いているのだ。これで目立たないはずがない。その証拠に二人の姿に目を留めた数人の通行人が、ちらちらと視線を投げてくるではないか。
「人通りは多いみたいですね」
 円谷の指摘を待つまでもなく、通りも店内も人であふれている。百貨店の紙袋を提げた女性、語り合うカップル、手をつないだ親子連れが次々にすれ違っていく。
 こうして見る限り、街の光景に不況の影は見受けられない。人々は買い、物は売れ、各店舗は活況を呈している。
「クリスマスとは言え、結構な賑わいじゃないですか」
 円谷は満更まんざらでもないように言うが、慎策はどこか違和感を覚える。この時期、珠緒に碌なプレゼントを買えない時も銀座で食事をした。あの頃と風景はほぼ同じだが、しかし何かが違う。
「どこか一般的な店に入ってみましょう」
 円谷の気まぐれに任せ、高架下にある寿司すし屋の暖簾のれんくぐる。昼飯を求める客でテーブル席もカウンターもほぼ満席だった。
 ランチメニューは松定食千五百円、竹定食千二百円、梅定食千円という布陣。二人は竹定食を注文し、運ばれてきた握り寿司を口に入れる。その間、円谷はちらちらと他の客が注文した皿を観察していた。
「特に梅が多いということもありませんね」
 客の懐具合を推し量っていたのか。
「松定食を頼んだ客もそこそこいますし、少なくともランチで五百円をケチる人は多くなさそうですね。もちろん、この店限定かもしれませんけど」
 庶民の暮らしに大きな変化はないと言いたいのだろうが、統計が否定している。マクロとミクロの間に齟齬そごが生じているに相違ない。
 何より慎策自身の違和感が一向に払拭ふっしょくされない。
「あのう」
 カウンターの向こう側にいた板前が恐る恐るといった体でいてきた。
「ひょっとして、真垣総理、ですか」
 しまった。
 店内に入った途端、うっかり帽子とマフラーを外していたことに気づかなかった。
「いや、よく言われるんですけど他人の空似です」
 言下に否定して円谷の肩を突く。これ以上いれば他の客からも怪しまれる。円谷は目にも止まらぬ速さで二人分の勘定をカウンターに置くと、慎策の袖を摑んで引き上げた。
「ご馳走様ちそうさま。レシートは要りませんっ」
 逃げるようにして店を出ると、早速円谷が低頭してきた。
「申し訳ありません。すっかり店内の雰囲気にまれてしまって」
「まさか、ああいう店は初めてだったとか」
「議員になってからはずいぶんご無沙汰でした。議員会館の食堂でも、あれほど混むことはまずありませんからね」
 円谷はすっかり渋面になっていた。
「やはり、このテの市場調査は統計局の人間に任せた方が無難だと思います」
「すまない、円谷さん。もう一カ所だけ付き合ってほしい」
「どこですか」
秋葉原あきはばら

 有楽町から秋葉原まで山手やまのて線に乗って移動する。公用車やタクシーを使わなかったのは電車内の様子を観察したかったからだ。
「コート類も含めて、男性女性とも量販店のものを着ている人が多いですね」
 妙に観察力の鋭い円谷は、乗客の服装を値踏みする。小声だからいいものの、聞こえたら周囲の客から袋叩きにされそうだ。
「円谷さんは、衣類には詳しいんですか」
「何を言ってるんですか」
 円谷は今更と言わんばかりだった。
「総理には専属のスタイリストがいますが、いつ何時テレビカメラやスマホに撮られるかもしれないので、わたしも見栄えやブランドを気にするようになりました。量販ものかそうでないかくらいは見当がつくようになったんですよ」
 説明を聞いてに落ちる。官房長官は女房役というのは、よく言ったものだと思う。
 先刻の失敗を学習し、帽子とマフラーはしたままだ。エアコンの効いた車内にいると早くも汗ばんできたが脱ぐ訳にはいかない。
「ねえ、あの二人さ。ひょっとして」
「うん、わたしもそう思って」
 若い女性同士のささやきが耳に届いたのは、その時だった。声のした方向を見ると、制服姿の二人がこちらに疑惑の視線を送っていた。
 意を決したように彼女たちが近づいてくるのと、車両がホームに滑り込むのがほぼ同時だった。またもや円谷が電光石火の動きを見せ、慎策の腕を摑んでドアが開いたばかりの出口へと走る。
「彼女たち、思いっ切り怪しんでいましたよ」
 慎策の言葉が非難めいて聞こえたのか、円谷は再び頭を下げる。
「重ね重ね申し訳ありません。また不穏な事態を招いてしまい」
「いや。乗客たちが気づく前でよかったですよ」
 円谷は慎策をまじまじと見た後、逆に非難めいた視線を投げて寄越よこした。
「やはり総理がお忍びで視察というのは無理があります」
「そうでしょうか」
「あなたは日本で一番有名つ顔を知られている人物なんです。ご自覚ください」
 それなら官房長官の円谷も同じようなものではないかと思ったが、口にはしなかった。
 秋葉原の街は銀座とは違う種類の賑わいがあった。カップルは少ないが、リュックサックをぱんぱんに膨らませた買い物客が歩道を埋め尽くしている。それぞれ目的の店が決まっているのか、立ち止まっている者はあまり見かけない。
 以前、舞台装置や照明の部品を安く仕入れるために、秋葉原の電気街にも足繁あししげく通った。その頃に比べて街の様相もずいぶん変わったが、人混みの多さは昔のままだ。
「秋葉原というのも、なかなかに縁遠い場所ですね」
 円谷はえ絵の看板や街角に立つメイド服の店員を物珍しげに見ながら言う。
「銀座と同じく応援演説に駆けつける時くらいしか訪れない街ですからね。こうしてゆっくり街並みを眺めるのは初めてです」
 なるほど円谷からは何かのオタクである雰囲気をまるで感じない。
 円谷もまた真垣統一郎と同じく世襲議員だ。子どもの頃から政治家としての英才教育を受け、趣味や娯楽はほどほどに留めて勉学に励んできたような印象がある。
「たとえ食費を削ってでも好きなものにカネを注ぎ込むことに躊躇ちゅうちょしない。この街には、そういう人たちが集まっているんですよね。確かに彼らの消費行動をつぶさに観察すれば、ミクロの景気動向が推し量れるかもしれません」
 何事にも熱心な若き官房長官は、免税の電器店やフィギュアの店、アニメとゲームの店、果ては同人誌専門店にまで立ち寄り、客の数や陳列されている商品の価格帯をらさずチェックしていく。
「わたしはニワカですが、この品揃えの多さを眺めていると内閣府がクールジャパンを提唱した理由が理解できるような気がします。確かにこれは日本特有の文化ですよ。思えば江戸時代の爛熟らんじゅく期に生まれた文化で現在まで生き残っているのは、浮世絵や狂言といった当時はサブカルチャーとして扱われたものばかりです。ひょっとしたら、この先百年二百年と受け継がれるのは案外そういう文化なのかもしれませんね」
 クールジャパン構想自体は失敗の憂き目を見たが、円谷は改めてその可能性に興奮している様子だ。議員会館と国会議事堂の往復だけでは概念としてしか認識できない事柄も、実際の現場で見聞きすれば血の通った知識になる。円谷に限らず、政策を立案する者には必要な行動なのかもしれない。
 一方、慎策は銀座で感知した違和感の正体を探るのに懸命だった。円谷とは違い、以前の銀座も秋葉原も知っている。歳末の賑わいも街の活況にも欠けている部分があるのだ。
 往来を行き来する通行人たち。店に出入りする買い物客。ガラス張りの飲食店で食事を楽しむ者たち。
 彼らの姿を穴の開くほど観察し続け、ようやく慎策は思い至った。
 そういうことか。
「円谷さん、官邸に戻りましょう」
「え。もうですか」
「やっと糸口を見つけました」
 途端に円谷の目の色が変わる。
「内需拡大の妙案ですか」
「いえ。内需拡大とは別の方法です」

「まだ民生党が政権を奪取する前、銀座や秋葉原は今と少し風景が違っていました」
 官邸への帰路、慎策は円谷に自身の考えを話し始めた。総理という肩書はあれど、所詮自分の正体は素人に毛の生えたような存在だ。幼少期から政治学を習得している円谷に理解してもらうためには腹蔵なく語らなければなるまい。
「繁華街には、例外なく外国人が多かったんですよ」
 明晰めいせきな円谷は一を聞いて十を知ったらしい。
「なるほど。インバウンド消費(訪日外国人観光客による日本国内での消費活動)ですか」
「銀座、秋葉原、浅草あさくさ新宿しんじゅく。いや、都内に限らずとも大阪、京都、奈良、神戸こうべ、福岡、日本には観光名所が山ほどあります。そこに外国から観光客を呼び込めばかなりの需要が見込めると思うのです」
「少々お待ちください」
 円谷はスマートフォンを取り出し統計局のデータを検索する。
「去年、訪日した外国人は千三百四十一万人でした」
「東京都の人口より少ないじゃないですか。国交省が色んなキャンペーンを張れば、もっともっと訪日客が増えるのに」
 観光立国としての発信が足りない。慎策は単純にそう考えていたが、円谷の方は何やら複雑な表情をしている。
「それは旧政権への批判とも受け取られかねません。他の閣僚の前では発言を慎まれるよう願います」
 どうやら国民党にとっての地雷を踏んだらしい。馬脚を露すのを怖れて口をつぐんでいると、慎策が腹を立てているとでも誤解したのか円谷が弁解するように話し始めた。
「総理もご承知の通り、訪日外国人が少なくなったのは民生党政権が誕生する直前、篠原しのはら元総理の時代からでした」
 篠原喜重よししげは二代前の総理大臣だ。国民党議員の不祥事が重なっただけでなく、自らも失政を繰り返した挙句あげくに民生党に政権を奪われた、言わば党を下野に追い込んだ張本人と名指しされている。
「ビザ(査証)の発給条件を強化させてしまいましたからね。訪日外国人の減少でインバウンド消費が見込めなくなったのも自業自得ですが、それを明言すれば篠原元総理を擁する須郷すごう派への挑発とされてしまいます」
 地雷であるのは間違いなさそうだ。だが地雷を避けていては折角の突破口まで辿たどり着けない。
 慎策は目を閉じて考え込む。
 官邸に到着するや否や、芹澤孝彦せりざわたかひこ外務大臣を執務室に呼び寄せた。慎策と円谷が並ぶ中、用件も告げられなかった芹澤は不安の色を隠せない。
「訪日外国人について外務大臣のご意見を伺いたい」
 単刀直入に言われると、芹澤は憮然ぶぜんとした顔つきになった。
「訪日外国人の数が頭打ちになっているのは承知しております。しかし、ビザ発給の規制が掛かったのは二〇〇六年、即ち篠原内閣の時期からです」
 自分は関与していないから責任はないとでも言うつもりか。相変わらず保身が色濃く出る大臣だと思った。
「具体的には、どういう規制だったのですか」
「二〇〇五年一二月より以前に発給されたビザの効力を停止し、それに加え六十七の国と地域に対するビザ免除措置の規制強化です」
 本来、外国人の日本滞在にはビザが必要なのだが、短期滞在に限定して免除している国と地域がある。具体的には韓国、台湾、タイ、シンガポールといったアジア、アメリカ、カナダの北米、その他欧州・中東の六十七カ所なのだと言う。公用ビザや就業ビザ、一般ビザといった特定の在留資格と対になったビザはともかく、観光を主な目的とした短期滞在ビザの給付を制限すれば訪日外国人が少なくなるのも当然だった。
「そもそもは平成の初期から増加傾向にあった来日外国人犯罪を抑制する目的でした。外国人による犯罪の検挙件数は二〇〇五年にピークを迎えていましたからね」
「どうぞ、総理」
 円谷がスマートフォンに表示させた統計では二〇〇五年の時点で検挙件数は四万七千件を、検挙された人数は二万千人を超えている。ところが翌年、短期滞在ビザの発給に制限を加えてからは件数・人数ともに減少に転じている。
「水際対策と言うのでしょうか、訪日外国人を制限したのは効果覿面てきめんだった訳です」
 芹澤は己の成果だったかのように言う。
「外国人による犯罪を減らすには、訪日する外国人を減らせばいい。当然の理屈です」
 どうだと言わんばかりの芹澤を前に、慎策は考え込む。芹澤の弁を言い換えれば、訪日外国人を増やせばまた外国人による犯罪が急増するという理屈になる。
 インバウンド消費を優先するのか、それとも外国人による犯罪の抑制を重視するのか。
「外務省としては国際交流の観点から、ビザ発給の規制強化に対しては慎重論を申し上げた経緯があります。それを当時の総理と法務大臣が中心になって強硬に推し進めました」
「しかし篠原内閣は次の選挙で大敗して、政権を民生党に譲りましたよね。その際に規制の見直しはなかったのですか」
 これには円谷が答える。
「ご承知の通り、民生党の主流派は反米をモットーにしていましたからね。日本がアメリカの観光地化することを徹底的に嫌う一派が、犯罪件数抑制を錦の御旗にして、ビザ発給の規制強化を継続させたのです。かの一派が親交を深めたい中国からの訪日も抑制することになるのですが、アメリカとの関係を再構築したい民生党にとっては格好の材料になった訳です」
「元のように国交したければ従前からの関係を見直せ、ですか」
「たかが短期滞在ビザの扱いで国と国との間柄を刷新できると考える方が幼稚な発想なのですが、好意的に捉えればそれまで実務に縁のなかった政権ならではの事情でした。もっとも」
 円谷はそこで皮肉な口調になった。
「拙速な判断でアメリカの機嫌を損ねた政府が、回り回って沖縄基地問題では苦汁をなめめさせられるのですがね」
 民生党政権時代、沖縄米軍基地の移転問題で総理の公約が二転三転したのは慎策も記憶している。
「総理もおぼえておいででしょうが、当時の国民党では民生党のかたくなな外交を冷ややかな目で見ていました。当のアメリカ政府も民生党政権は短命に終わると踏んでいたので、国民党とアメリカの出来レースという言い方もできますね」
 何てことだ。慎策は毒舌を吐きたい衝動に駆られる。かつての国民党の勇み足と民生党の視野狭窄きょうさくが共鳴して訪日外国人を激減させ、結果的にインバウンド消費を枯渇させたという図式ではないか。言わば自業自得であり、今の日本は過去の政権の失策のツケを払わされている格好だ。
「我が党は先の選挙で政権を奪還しましたが、短期滞在ビザの発給規制は従前のままです。これは総理もご承知の通り、やはり犯罪件数の抑制に一役買っている側面があるためです」
「それだけではないでしょう、官房長官」
 芹澤は隠し立てをするなという目で円谷をにらむ。
「現在に至っても発給規制に見直しの気運が生まれないのは、平田ひらたさんや鹿内しかないさんが頑迷なせいではありませんか」
「それはまあ、確かに」
 円谷がつられたように苦笑する。それで慎策にもおおよその見当がついた。
 芹澤は第二派閥芝崎しばさき派に所属している。対して平田緑郎ろくろう法務大臣は須郷派の幹部でもある。傍で観察していると、同じ閣僚であっても派閥間の確執は隠然と存在している。芹澤も平田も慎策の前では素知らぬ顔をしているものの、時折交わす視線が剣吞けんのんであるのは隠しようがない。
 施策が停滞していた原因の一つは派閥争いにあったのか。
「総理」
 円谷が気遣わしげに話し掛けてきた。
「訪日外国人によるインバウンド消費の増加が必要というのはさすがのご慧眼けいがんです。しかし政策を進めるには平田法務大臣を擁する須郷派への根回しと了解の取りつけが絶対条件になります。それと鹿内国家公安委員長をどう説得するかです」
 鹿内連次れんじ国家公安委員長。
 彼の顔を思い浮かべた瞬間、気が重くなった。笑った顔など想像もつかない厳烈な風貌と取り付く島もないような立ち居振る舞いは、慎策が最も苦手とする相手だった。

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プロフィール
中山七里
(なかやま・しちり)
1961年生まれ、岐阜県出身。『さよならドビュッシー』にて第8回「このミステリーがすごい!」大賞で大賞を受賞し、2010年に作家デビュー。著書に、『境界線』『護られなかった者たちへ』『総理にされた男』『連続殺人鬼カエル男』『贖罪の奏鳴曲』『騒がしい楽園』『帝都地下迷宮』『夜がどれほど暗くても』『合唱 岬洋介の帰還』『カインの傲慢』『ヒポクラテスの試練』『毒島刑事最後の事件』『テロリストの家』『隣はシリアルキラー』『銀鈴探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『復讐の協奏曲』ほか多数。

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