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異なる国の人と一緒に料理をすると、小さな発見がたくさん転がっている。「チヂミには酢醬油をつけた玉ねぎを」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今年の4月から世界中の「日常のごはん」を求めて、海外に赴いている山口さん。今回は韓国の済州島を訪ね、現地の方々との交流や一緒につくった韓国のごはんについて綴ります。
※第1回から読む方はこちらです。


#14 チヂミには酢醬油をつけた玉ねぎを

 5月の上旬。私は韓国のハワイと呼ばれている済州チェジュ島︎を4日間訪れました。済州島の空港で私を迎えてくれたのは、ソウルで小さな本屋を営み、コーディネーターを担当してくれたJINAさん。友達の紹介で知り合ったのですが、旧知の友達だったかのようにすぐ仲良くなりました。
 そんな彼女と、彼女の友達3人と私の5人で済州島を旅して2日目のこと。JINAさんが、泊まっていたAirbnb(空き部屋や空き家を宿泊施設として提供するホストと旅行者をつなぐ旅のマッチングサービス)で自炊して夜ごはんを食べるプランを組んでくれていたため、私は4人の韓国人女性と一緒に自炊をすることになりました。異なる国の人と一緒に料理をすると、料理のプロセスや食材の扱い方に違いがあって、小さな発見がたくさん転がっています。どんな気づきを得るのだろう? とワクワクしながらその日が始まりました。

持ち場を離れて友達と集まってお昼ごはんを食べているおばあちゃんたちがたくさん。丸まった背中を寄せ合いおしゃべりしながら食事をしている様子がとても微笑ましい

 買い出しに行ったのは、島で毎月2と7がつく日にオープンする市場。ハルマン市場と呼ばれるおばあちゃんたちが野菜を売っているコーナーには、腰の曲がったおばあちゃんたちが各区画にちょこんと座っています。売っている野菜たちの中にはタラの芽やわらびなど、日本と同じ時期に旬を迎える山菜があり、改めて日本と韓国は距離が近い国なのだなと感じました。
 この日は、さやから取り出したえんどう豆、せり、長芋、にんにく、玉ねぎ、トマトをおばあちゃんたちから買いました。海鮮コーナーでは済州島名産のタチウオ、たこ、アンコウ、アジ、カサゴなどがずらりと並んでいて海鮮好きとしては大興奮。

甘鯛は日本のスーパーではなかなか見かけないので韓国の人がうらやましい!

 私たちは甘鯛を購入し、お店の人に内臓とエラを取り、塩をふっておくか聞かれたのでお願いしました。ふり塩をするサービス、日本でもやってくれたらいいのにな。

みんな料理が好きなようで、5人のグルーヴ感が心地よかった

 その後も何を作るか相談しながら買い物をして帰宅。5人でキッチンに立ち、料理を始めました。まず取り掛かったのは、みんな大好きチヂミです。具材のせり、玉ねぎ、エビとチヂミの粉を混ぜて焼くだけのシンプルな一品。チヂミをつけるタレをJINAさんがぱぱっと作ってくれたのですが、薄切りの玉ねぎが入っていてはっとしました。私が日本でチヂミを食べる時は調味料だけ合わせるのですが、韓国では玉ねぎ入りがスタンダードなのだそう。これが一つ目の発見です。

 甘鯛は調理法に悩みましたが、3枚におろしてシンプルに焼いて食べることに。甘鯛の骨はいい出汁が出るのでみそ汁も作ることにしました。具に長芋を入れると、みんなから「韓国で長芋は健康のためにすりおろして飲むことが多いので、料理して食べるのはびっくりです」と言われて私もびっくり。牛乳と合わせて長芋ジュースを作るようなのですが、一体どんな味がするのでしょうか……。長芋みそ汁の反応も楽しみなところです。これが二つ目の発見。

 三つ目の発見は韓国の人がにんにくをそのまま焼いて食べること。焼き野菜は頻繁に作るけれど、にんにくを焼いて食べるという発想はなかった。おいしくないわけがない。他にもせりのナムル、えんどう豆ご飯を作り、今晩の食卓が完成。

右上から時計回りに、甘鯛の塩焼き、わらびの酢漬け、チヂミ、せりのナムル、焼きにんにく

 みんなで食卓を囲み、嬉々とした声で「チャル モッケッスムニダ!(いただきます)」と唱えて食べ始めました。チヂミはカリカリとして香ばしく、酢醬油に馴染んだ玉ねぎのシャキシャキ感と合わさると最高においしい。玉ねぎをタレに入れるだけで倍以上おいしくなるんだと実感しました。

えんどう豆ご飯は、豆がとっても甘くて味が濃くておいしい!
にんにくは焼き目をつけるのがポイント

 焼きにんにくは香ばしくてホクホクとした食感で、おつまみにもいいし、ご飯の上に乗せてちょっと醬油を垂らして食べると、熱々のご飯が一層にんにくの香りを引き立てて芳しい。余ったら刻んでチャーハンに入れてもよさそうなので、にんにくが余った時にもいい食べ方を発見しました。

 みそ汁も「おいしい〜!」との声が上がり、どの国に行ってもみそ汁はウケがいいなぁと感心しました。長芋の新たな使い道も披露できて少し誇らしい気持ちです。一緒に料理して食べることのゆたかさを、ひしひしと感じられた夜でした。

フィルムカメラが好きな子が撮ってくれたいただきますの前の一枚

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※本連載は毎月1日・15日更新予定です。

プロフィール
山口祐加(やまぐち・ゆか)

1992年生まれ、東京出身。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(紀伊國屋じんぶん大賞2024入賞)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など多数。
*山口祐加さんのHPはこちら。

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