思いがけないいいことが、人生にはいろいろあるだろう。「いいこと、あるかも」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#16 いいこと、あるかも
これはないしょなのだが、統合失調症が落ちついてから、おくすりの副作用でとても太った。といっても、統合失調症の症状が重いときは、逆にごはんを食べられなくなってがりがりにやせてしまっていたので、プラマイ0でもあったのだが、2024年にはいってからというもの、こどくの食欲は尽きることを知らず、毎食たくさん食べるようになり、とてもとても、太ってしまった。
さいわい、こどくはきやせをするタイプなので、見た目上はわからない。しかし、体重計の目盛にがくぜんとする日々が続いた。
主治医の先生に相談すると、おくすりをへらすのはまだむずかしいとのことだった。そのため、運動によって、ダイエットをすることになった。
こどくは外出がにがてだ。統合失調症の陽性症状も出ているし、そもそも、つかれることがにがてだ。だから、いやいやながら、かぞくやおともだちといっしょに、出られる日は外に出ることになった。
でも、外出がにがてだという思いこみは、すぐにくつがえされた。
こどくは睡眠が浅いわけではないが、ねつきが少々わるい。しかし、外に出た日は、すぐ眠れるのだ。それだけではない。あさから出かけた日は、気分がすっきりして、その後の活動が捗る。ほかにも、あたらしい散歩コースを見つけてたのしくなったり、前からやりたかったことができるようになったりと、よい効果がたくさん得られることがわかった。
もちろん、陽性症状が強く出て、こわいと感じたときもある。でもそんなときは、いっしょにいるかぞくやおともだちにそれを伝えて、こわいものを避けるようにした。
そして、意外なところにも、よい効果は表れた。YouTubeに投稿する動画のアイデアや、配信企画の内容、エッセイのトピックなど、家のなかでは思いつかなかったようなことが、たくさん思いつくようになったのだ。これはおおきな変化だった。
外に出ると、すくなからずこどくの環境が変化する。その変化のなかで、「統合失調症当事者にとって、こうなったら生きやすいな」ということに気づけるようになった。
はじめはダイエットのため、にがてながら外に出ることになった。しかし、思っていた以上に外出はたのしく、こどくにたくさんのものを与えてくれた。
思いがけないいいことが、人生にはいろいろあるだろう。こどくにとって、それは外出だった。今日も、外に出る。いいこと、あるかも。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。