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私のクリスマスはいつもどおりの食卓。「クリスマスぎらいのわけ」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。街の景色が華やいだり、音楽が鳴り響いたりと、胸が躍る人が多くなるクリスマス。でも、山口さんにとってはクリスマスに苦い思い出もあるそうです。
※第1回から読む方はこちらです。


#22 クリスマスぎらいのわけ

 今日はクリスマス。私が一年でいちばん、苦手な日です。この原稿はペルーの首都・リマで書いているのですが、ペルーはカトリックの人たちが多い国なので盛大なお祝いムードで包まれています。隣のマンションからはささやかな音のクリスマスソングが永遠リピート。お願いだから、止まってくれ……。
 日本でも同じように、街に出るときらきらと輝くイルミネーションや耳に入る音楽、すべてがクリスマスムードに包まれている中で、クリスマスがきらいなんてとてもじゃないけど言い出せない。だけど、そういう人もいていいじゃないかと思って筆を執りました。

 私のクリスマスぎらいの始まりは、幼い頃にさかのぼります。私は生後半年からアトピー性皮膚炎を患っていて、乳製品、肉類、甘いお菓子などを食べると皮膚が痒くなりました。それは食いしん坊だった私にとって、どうしようもないくらい切なく、悲しいことでした。
 その悲しみが、最大限に膨らんでしまう日が、クリスマスなのです。ふわふわの生クリームがたっぷりのったケーキ、鶏の丸焼き、クリスマスまでのカウントダウンをしながら毎日1個お菓子が食べられるアドベントカレンダー……。絵本に出てくるようなクリスマスのおいしい風景は、全部私が食べられないものでした。毎年、クリスマスが近くなるとテレビから流れてくるあのCMも、私の「食べたいのに食べられない」気持ちを逆撫でしてきます。保育園でクリスマスの話題が出ても私に話せることはなく、「はやく、はやく、クリスマスが過ぎますように」と幼いながらに願っていました。

 幼い頃苦しんだアトピーは、小学校に入る前くらいにだいぶよくなり、今ではなんでも食べられるようになりました。それは本当によかったと思っています。もちろんクリスマスに食べたかったものも全部食べられるようになりました。それでも幼い頃の感情は強く残るようで、いまだにクリスマスが近づいてくるとそわそわしてしまいます。料理の仕事をしているのに、クリスマスがきらいだなんて、なんだかもったいないような気もします。でも私はそういう人生に生まれたのだから、しょうがないよね、と長い時間をかけて受け入れられるようになりました。
 これから先、子供ができることがあればクリスマスの印象が変わるのかもしれませんが、それはまだ知らない未来の話。私のクリスマスは、いつもどおりの食卓を過ごすか、クリスマスを言い訳においしいワインを開ける日になりました。

2022年12月25日の夜ごはんは、ぶりと牡蠣の鍋でした

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※1月1日はお休みです。
※本連載は毎月1日・15日更新予定です。

プロフィール
山口祐加(やまぐち・ゆか)

1992年生まれ、東京出身。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(紀伊國屋じんぶん大賞2024入賞)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など多数。
*山口祐加さんのHPはこちら。

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