謎校則「トマトを選んではいけない」?――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」
タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。
*第1回からお読みになる方はこちらです。
#18
理解不能な校則たち
最近の学校では、運動部に所属していても「男子生徒は丸刈りにしなくてはいけない」という規則はあまり見かけないという。私が学生の頃は(女子校だったが)運動部に所属する男子生徒は丸刈りというイメージが強かった。令和になった現在、多様性や個々の人権を重んじる世界になってきて変わったのだろう。皆が丸刈りにする理由ってあるんですか? となったのかもしれない。一体感や歴史を重んじる気持ちも大切だとは思うが、強制はできぬといった感じのようだ。
制服も変わってきているようで、男だからズボン、女だからスカートという考え方は固定観念の押しつけとされ、女でもズボン、男でもスカートをはいていいじゃないかと自由に選べるシステムを導入している学校も増えたという。校風を守る、学校理念を重んじる世界観が堅苦しいと思われる社会はこれからもっと進行するのかもしれない。
個人的には校則なんて今後待ち受ける世の中の理不尽さやままならない状況に対応するための修業みたいなものだと思って学園生活を送っていたのだが、もはやこの考え方も化石のようだと笑われるかもしれない。時代の変化にオバサンついていけないわ……とため息が出る。
私の母校は、それはそれは校則が厳しく、なかにはツッコミどころのある校則も存在した。校内にいるだけで降りかかる「校則」という名の難題から逃れて、しのいで、逃げきろうと、友人や先輩後輩たちとともに思案と協力の日々を過ごしていた。
どうすれば目をつけられず、理不尽な叱責から逃れられるか話し合い、「なんでこんな学校に来ちゃったんだろうね」と笑い合う。厳しいからこそ生まれる縦横のつながりもあった。校則を悪者扱いしているぶん、一緒に教育的指導から身を守る(校則を守るフリをして、イイコの顔をしてしれっと生き延びる)ために闘おうという謎の団結力が生まれたものだ。
私の周囲にいる友人や先輩後輩はグレることはせず、反抗して窮屈な罰をうけるよりも見せかけでも順応をしたほうがいい、と考えている者たちが多かった。私もその意見に同調した。結果、良くも悪くも、ある意味ことなかれ主義、ノンポリ主義の現在の性分が育ってしまったのでもあるが。
ここで、我が母校のツッコミどころ満載の校則たちを紹介する。
まずは軽めのところで、化粧をしたり眉毛を整えたりしてはいけない。これはちょっと厳しい、いわゆるお嬢様学校なんかだとよく聞く。
持ち物チェックでうっかり化粧品なんか出てきた日には反省文に親呼び出しに叱責にと大変な目にあった。しかしハンドクリームや色のつかないリップクリーム、日焼け止めと制汗剤は持ち込みが許されており、許されている範囲内でのオシャレ(?)を楽しみたくて、仲間内でやたらとハンドクリームの香りや質にはこだわった記憶がある。
眉毛を抜いて整えていたのがバレて元の状態に生えそろうまで停学となった先輩もいた。大人になりたい気持ちをメイクや毛抜きで表すことは勉学には必要ないですよ、と教師から言われていたっけ。
いまならメイクなんかせず若い肌を存分に満喫すればよかったじゃないか、と過去の自分に言いたくもなる。しかし当時はとにかく早く大人になりたいムードが高まっていた。
高等部に進学すると援助交際をして小金を稼いでオシャレやメイクに費やすというツワモノも出てきた時代だった。援助交際は、いまではパパ活やらママ活と言われているらしい。援助交際も売春行為をやんわり言い換えただけと年長の方に言われたことがある。どこまでマイルドになるのか。そして、売り手もあれば買い手もある世の中はずっと変わらないのか、と考えてしまう。
意味不明な校則、ちょっとヘビーなものもあげておく。「紙袋を学校内に持ち込むときは許可証が必要」というものだ。
生徒手帳内に「紙袋使用許可証」というページがあった。学園祭や部活などで必要な荷物が学校指定の通学カバンやバッグに入りきらないときはこの許可証のページに「どうして必要か」「いつ必要か」を記入し、保護者の印鑑をもらって事前に教師に提出する。
許可証なしに紙袋を使用するとやはり親呼び出しと叱責の罰則が待っている。事前に、というのもかなり厄介だった。何日も前からその日に紙袋を使用するかもとは、なかなかなりにくい。急に必要になった場合は教師に相談するという手段もあったが、いろいろ質問されるので滅入る。「校内には勉学に必要ないものを持ち込まない」のムードが強すぎた。
そして、私が在籍していた期間でもっとも「なんじゃそれ」と思った校則はズバリ、トマトを選んではいけない、だ。
文章だけだと意味不明さをより強くしてしまうため解説しよう。
中高時代、夏期に遠泳つき合宿が1週間ほど開催された。その際に、海で泳ぐ練習時間がある。練習の合間にバットに入れられたトマトが間食として配布される。その際、生徒たちは配布係の指示に従って日陰に集い、手前から順番にトマトを取っていかなくてはならない、という校則だった。
奥のほうが大きい、おいしそうと手を伸ばした日にはもう大変。そばで見ている教師がホイッスルを鳴らしながらすっ飛んできたという話も聞いた。いま夏合宿があるのか、トマトの校則があるのかはわからないが、当時の私たちは暑さより遠泳練習のつらさより、トマト選びをしてはいけない理不尽さで胸がキューッとなったものだ。
いまはほんと、どうなっているのか気になるところだ。
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プロフィール
壇蜜(だん・みつ)
1980年秋田県生まれ。和菓子工場、解剖補助などさまざまな職業を経て29歳でグラビアアイドルとしてデビュー。独特の存在感でメディアの注目を浴び、多方面で活躍。映画『甘い鞭』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『壇蜜日記』(文藝春秋)『たべたいの』(新潮社)など著書多数。