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もっとこの世界のことを、自分のことを、知れるぶんだけ知っておこう。「武器だから」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#45 武器だから

 こどくはずっと、すくなくとも、自分のことは理解しきれると思っていた。たとえば、自分自身の体調のことだってなんでもわかって、そして理解できると思っていた。しかし、必ずしもそうではないことを、こどくは身をもって知った。
 こどくは16歳、高校2年生のとき、統合失調症を発症した。もちろん発症後の陽性症状や陰性症状、認知機能障害には悩まされたが、その前から、予兆はあった気がする。
 中学生のころから、こどくは極端に自己肯定感が低かった。当時、こどくはずっと、こどくのことがきらいだった。でも、いま考えると、それはおかしい。こどくは手先こそ不器用だったが、授業ではそこそこの成績をとっていた。課外活動も積極的にこなし、まわりからもそれなりに認められ、おともだちも少なくなかった、と、思う。それでもこどくは、こどく自身のことがだいきらいだった。だいきらいで、他人に対して必要以上に謙虚だった。保護者と担任の先生が面談したときに、先生から「こどくちゃんはあきらかにおかしい」と言われたほどだ。
 なぜそこまで、自分がきらいだったのか。理由はたくさんあるかもしれないが、こどくは、「統合失調症の前駆期」だったからだと思っている。統合失調症の前駆期とは、統合失調症を発症する前に訪れる、げんきがなくなったり、やる気がなくなったりする症状が出る時期だ。こどくは前駆期の症状のせいで、極端に自分がきらいになり、すぐにおちこむことがおおかったのではないかと思う。また、この時期には抑うつ傾向、ようするに、うつ病のような症状が出ることもある。また、発症して高校に通えなくなる前には、異様なほどの吐き気がこどくをおそった。家を出る前に朝食を吐き、食欲もなくなり、こどくはどんどん痩せていった。
 しかし、前駆期の段階で、統合失調症だと認定することはむずかしい。こどくは発症当時、うつ病だと診断されたが、それもそうで、「幻覚」や「妄想」が出ないうちには、統合失調症の診断がおりることはすくないからだ。
 前駆期、こどくはわけがわからなかった。ふつうに過ごしているのに、担任の先生からは「様子がおかしい」と言われ、吐き気が止まらない。自分のことなのに、自分がわからなくなった。ただ、ひたすらに、こわかった。
 冒頭で、こどくはこどくのことを理解しきれると思っていた、と述べた。しかし、実際には、しっかりと、統合失調症になる前に、こどくのからだは、サインを出していた。あのとき、まさか統合失調症なんて名前も知らない病気になるなんて思ってもいなかった。どうすればよかったのかは、いまだにわからない。でも、唯一わかることは、統合失調症のことを、もっと知っておけばよかった、ということだけだ。
 自分のことも、他人のことも、ひとでなくとも、すべてにおいて、理解しきることは、きっとこのさき一生ないだろう。だからこそ、こどくは、理解しきれないことを知っていてなお、もっとこの世界のことを、そして自分のことを、知れるぶんだけ、知っておこうと思う。知るということは、ひとにとって、最大の武器だから。

#46へ続く
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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