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「NHK出版新書を求めて」第6回 装丁家の目に新書の棚はどう映るのか?――奥定泰之(装丁家)さん、名久井直子(ブックデザイナー)さんの場合

各界で活躍する研究者や論者の方々はいま書店で、とくに「新書コーナー」の前で何を考え、どんな新書を選ぶのか? 毎回のゲストの方に書店の回り方、本の眺め方から現在の関心までをじっくりと伺う、NHK出版新書編集部の連載です。
第1回から読む方はこちらです。



今回はこの人!

奥定泰之(おくさだ・やすゆき)
1970年愛媛県生まれ。おもに書籍や雑誌のデザインを手がける。『早稲田文学』などの雑誌のほか、小説、詩集、実用書、ビジネス書など幅広いジャンルのデザインをおこなう。第40回、第46回造本装幀コンクール入賞、第2回竹尾賞優秀賞。共著として『感性と社会』(論創社)、『近代デザイン史』(武蔵野美術大学出版局)。現在、講談社選書メチエの装丁を手がける。

名久井直子(なくい・なおこ)
1976年岩手県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。最近の仕事に『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、筑摩書房)、『黄色い家』(川上未映子著、中央公論新社)『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス』(小学館)など。

*   *   *

 2023年6月1日。東京・池袋は6月に入ったばかりというのにもう十分暑い日だった。それでもジュンク堂書店池袋本店には、ひっきりなしに人が本を求めてやってくる。

 本企画「NHK出版新書を求めて」は、研究者や読書家の方々と本屋さんへ行き、新書の棚から実際に10冊本を選んでもらおうという企画である。

 今回は特別編として、本の装丁を手がけるお二人と一緒に新書の棚をめぐる。講談社選書メチエを担当している奥定泰之さんと、文学作品を中心に数多くの装丁を手がける名久井直子さんのお二人だ。お二人は旧知の仲でもある。

 一見、簡素なデザインに見える新書や選書は、プロの装丁家の目から、どのように見えるのだろうか。
 今回もジュンク堂書店池袋本店の書店員さんとともに本棚を回る。

■新書ってなんなんだろう?

――まずは9階にあるエディトリアルデザインの棚に行ってみましょうか。

奥定 新書の棚よりも、こうした専門の棚に行き、たまたま挟まっている新書を買うことの方が多いですね。新書だけの棚だと、けっこう体力が要ります。

名久井 私もあまり新書の棚には行かないな。文字を読まなきゃいけないですからね。

奥定 そうそう。背表紙で文字を読まないといけない。

左:奥定、右:名久井

――あ、たしかに新書が挟まってますね。

奥定 『編集とはなにか。』(奥野武範、ほぼ日刊イトイ新聞、星海社新書)。中を見ると、けっこう文字がぎゅうぎゅうですね。

名久井 セプテンバーカウボーイの吉岡秀典さんのお仕事ですね。ニューブックスタイルだ。

――ニューブックスタイル?

名久井 紙の名前です。

――やはりデザイナーさんは見るところが違いますね。

名久井 新書ではないですが、『杉浦康平 デザインの言葉』(工作舎)という本が出ている。

奥定 杉浦さんといえば、かつての講談社現代新書の装丁をされていましたね。今は中島秀樹さんです。

名久井 真ん中に四角だけ。初めて見たときにびっくりした気がする。

奥定 斬新でしたよね。

――菊地信義さんの『装幀百花』(講談社現代文庫)という本もありますね。

奥定 菊地さんは平凡社新書のデザインをされてますよね。赤い四角のデザインで、斜めになっている。今は変わって、水色と白の丸が斜めになっていて。前のデザインもかっこよかったけど、なんで変わったんだろう。

編集部 赤いデザインの頃は「知識の十字路」という意味だったそうですが、分かりづらいということで、今は「知の広場」になっていると聞いたことがあります。

奥定 赤い四角が4つあるのではなく、白い方が道ということですね。言葉でちゃんと説明するのが菊地さんっぽいですね。

――それでは、新書の棚(3階)に行ってみますか?

エスカレーターを下りる途中の特設フェアで立ち止まる二人

奥定 ジュンク堂書店のここではいつもひっかかっちゃう(笑)。

名久井 『湯川秀樹 詩と科学』平凡社のSTANDARD BOOKS……これは新書ですか?

編集部 これは新書ではなく、理系寄りの文学読み物を集めたシリーズですね。

名久井 これは新書ではないのか。

奥定 サイズの問題ではなさそうですよね。

書店員 STANDARD BOOKSはハードカバーですよね。

名久井 あ、カバーに芯が入っている。しかもポルカ(名久井さんが開発に関わったファンシーペーパー)を使ってくれている! ありがとうございます。エンボスも入っていて、豪華ですね。

奥定 さりげなく豪華で、素敵ですね。

名久井 でもこうやって見ると、新書との違いがやっぱりよくわからないな。

奥定 分厚さもそれぞれですしね。

名久井 あ、企画からずれちゃいますけど、この新装版の『シンジケート』(穂村弘)は、飴の紙を本文の間に挟んだんです。落ちないようにくっつけて。三種類の紙が柄違いであるんですよ。

奥定 本によって紙が違うんだ。いいですね。

『シンジケート』の装丁を解説する名久井さん

■新書は帯の情報量が多い!

――新書のコーナーに来ました。

名久井 帯の情報量がすごい!

奥定 最近は新書の「全帯」も多いですよね。帯だけど、カバーに見えちゃうという。ちょっと上部があいてますね。

『ポテトチップスと日本人』(稲田豊史、朝日新書)。最近流行している全オビは、よく見ると上が少しだけ空いているものも

名久井 本当だ。2ミリ下げていますね。

奥定 2ミリ下げず完全に被せているものもありますね。

名久井 ちょっとだけ下げるのはなぜなんですか?

編集部 当初は全帯とはいえ「帯」という名目だったので、エクスキューズとして2ミリ下げていたんですが、今は下げないところも増えていますね。NHK出版新書の全帯は下がっていません。

奥定 こうやって新書を見てみると、カバーはPP加工(紙の表面をポリプロピレンでコーティングしたもの)が多いですね。マットPP(PP加工の中でも仕上がりをマットにしたもの)も。

名久井 プレスコートの本もありますね。ニス、プレスコート、PPの順に耐久性が上がり、値段も上がっていきますけど、ちょうど中間の加工です。(編集部注:プレスコートとはPP加工のように表面をポリプロピレンでコーティングするのではなく、特殊な塗料を塗布して乾燥させたのち、圧をかけることで光沢を出す加工のこと)

奥定 安いけど強い加工ですよね。

名久井 うーん、でも全帯か。なんで帯にするんだろう。カバーにしたらダメなんですかね。

書店員 レーベルの中の1冊でありつつ、単行本としても売りたいという両方の気持ちがあるのかもしれないなと私は思っています。

名久井 なるほど。多くの新書は帯が4色(フルカラー印刷)で刷ってあって、派手な印象ですね。あと作者の顔がどーんと出るのは、読者として嬉しいのかな。やっぱり情報量に圧倒されちゃう。

奥定 帯がないと、かなり情報量が少ないからじゃないかな。逆に新書がこれだけあったら、いちいち手にとって、中を開いて、目次を見て買うのは面倒だから、帯で目についたものを買うようになっているのかもしれませんね。

慣れた手つきですぐに本を「裸」にして確認していく

■ちくま新書「秀英体」の秘密

――それではレーベルごとに回ってみましょうか。今回は、新書のデザインを見つつ、お二人で10冊選んでいただければと思います。まずは岩波新書さんから。

名久井 岩波新書はいいですよね。素敵。

編集部 一九三八年創刊の、一番歴史がある新書レーベルですね。装丁は白樺派の画家の、児島喜久雄だそうです。「岩波クラシックス」は当時のデザインのまま復刊しています。

名久井 すごい、手書き感が残っていますね!

――手書き感?

名久井 筆あとが残っているじゃないですか。縁のところ、赤い部分を塗っているかすれがある。

――かすれ? 本当だ!

書店員 わ、はじめて気付きました!

名久井 ここから輪郭だけ取って、今は塗りつぶして現在の岩波新書のデザインになったのかな。

奥定 ピンクや紫もある。これは「ジュニア新書特装版」と書いてありますね。

名久井 『科学の考え方・学び方』(池内了)か。これ買おうかな。私はたまに福音館書店の『たくさんのふしぎ』シリーズのような子供向け科学絵本の仕事もやるんですが、すごくためになるんですよね。子供向けくらいがちょうどいい。

奥定 ぼくも子供向けの新書が好きですね。あと、講談社のブルーバックスも好きです。

――隣にあるので見てみましょう。

奥定 荒俣宏さんの『サイエンス異人伝』、これは面白そう。これは買おう。

名久井 面白そう。他のブルーバックスよりデザインが大人っぽいですよね。

――隣に中公新書があります。

名久井 中公新書はどなたがデザインしたんですか?

編集部 建築家の白井晟一さんだそうです。

名久井 松濤美術館の設計をされた方ですよね。かっこいい装丁だ。

名久井 この下にある「中公クラシックス」もシンプルでかっこいいですね。

書店員 このシリーズは古典を新書サイズで読もうという試みです。

名久井 中公新書ラクレは、弘兼憲史さんの本(『増補版 弘兼流 60歳からの手ぶら人生』)や、ヤマザキマリさんの本(『歩きながら考える』)も出されているんですね。ご本人がイラストを書いている。

編集部 中公ラクレ新書は、中公の装丁デザイン室が手がけていると聞いたことがあります。

名久井 私は中公新書から一冊、『言語の本質』(今井むつみ、秋田喜美)が面白そうですね。

――次はちくま新書です。

名久井 ちくま新書ってきれいですね。好きです。

奥定 間村俊一さんのお仕事。素敵ですよね。

名久井 表紙に概要が載っていて、よくできてるなぁ。

奥定 文字もゴシックが多いから、秀英体は落ち着きますよね。

名久井 いいですよね。ゴシックよりも秀英体の方が詰められるから、長いタイトルでも入れやすい。そういう意味でもよくできていますね。

奥定 秀英体はカタカナもツメツメで行けますもんね。ゴシックは四角の中に収まっているんですけど、例えばこの『職場のメンタヘルス・マネジメント』という本だと、「へ」がぺちゃっとなっていますよね。「ル」もぺちゃっとなっている。秀英体はこういうふうに詰めても読めるんですよ。背もそうですよね。

名久井 こうやって見てみると、ちくま新書は揃えることで良くなるデザインですよね。1冊だけだと「さびしいんじゃない?」「売り場でどうですかね?」とか言われそう。でもそれでよし! とした人が偉いなと思います。

奥定 帯の背のマークの色が違うのはなぜでしょうか。ジャンルで分かれているのかな。

よく見ると、背のマークの色が違う

編集部 おそらくですが、月ごとに違うのではないでしょうか。

奥定 帯の特色(プロセスカラーインキでは再現できない色を表現するために、あらかじめ調合されたインク)の色に合わせているんですね。ジャンルではなさそうです。

名久井 その月の帯の色と合わせて、マークの色も変わっているんですね。そういえば他の会社だと、ジャンルごとに決まっていたりするものもありますよね。

帯で使われている青い特色の色に合わせて、マークの色も青に合わせているのかもしれないと推理する二人

■新書ってなんなんだろう(再び)

――次に講談社現代新書を見ましょうか。

名久井 お顔がどーんとなっている表紙が。

編集部 これは「現代新書ハンドレッドシリーズ」ですね。112~136ページくらいしかないんですが、紙の斤量(紙の厚さ、kgであらわす)を上げて厚みを出しています。

奥定 確かに分厚い。でも100ページちょっと。あまり使わない厚さの紙ですよね。

名久井 斤量が80kgぐらいありそうな感じ。その他の講談社現代新書の四角の色は、全部違うんですか。

奥定 そうかも。昔の講談社現代新書は、明朝体で縦書きでしたよね。

名久井 横になったのは、カタカナの書名が増えたとか、理由があるんでしょうか。

奥定 縦だと帯にかかっちゃいますよね。

編集部 NHK出版新書も横ですが、帯に多くの情報を入れようと思うと、表紙の文字は横書きの方が都合がいい、というのはありますね。

名久井 お、吉増剛造さんの本(『我が詩的自伝』)がある。これはアラーキーさん(荒木経惟)の字じゃない?  

奥定 いいですね、かっこいい。これは買います。

――次は集英社新書ですね。

名久井 集英社新書は、古いデザインも好きでしたね。グレーに、真ん中が白くてヌケが良かった感じで好きだけど。

編集部 光ると四角が見えたり見えなかったりして、それが分かりにくいから変えたんでしょうか。両方とも原研哉さんのデザインですね。明朝体で縦だったのが、ゴシック体で横書きになってますね。

集英社新書 新バージョン右、旧バージョン左

奥定 光文社新書はアラン・チャンさんのデザインで、これもいいですよね。昔の集英社新書に近い感じ。キャラ(アランちゃん)もかわいいね。

名久井 かわいいですよね。アランちゃんはいませんが、私は『美味しい煮卵の作り方』)(はらぺこグリズリー)が気になります。これは全帯なんですかね。中の写真もカラーでしっかり。世界一美味しい煮卵の作り方、知りたいよね。ただごとではないおいしさなんだろうな。

書店員 この本は売れましたね。最初に入ってきたときは新書だと思わずに、レシピ本かなと思いました。

名久井 新書ってものがさらにわからなくなってきた。

奥定 何でもありなんですねえ。

名久井 新書はテレビっぽいですね。新書の棚にいると、ぼーっとテレビのチャンネルを換えてるような感じがする。

はらぺこグリズリー『世界一美味しい煮卵の作り方』

■いよいよNHK出版新書の棚へ

――冒頭でも少し触れた、星海社新書と、隣の新潮新書の棚を。

名久井 星海社新書は自由そうな感じがありますね。『せめて25歳で知りたかった投資の授業』(三田紀房、ファイナンシャルアカデミー)とか、対象が25歳。若いですね。

編集部 そうですね。読者対象を若めに設定しているようです。

名久井 目次も凝ってるなあ。毎回変えてるのかもね。あと小口が狭い。

奥定 その点、新潮新書は落ち着きがありますね。

編集部 新潮新書は比較的、ページ数がはっきり決まってる感じがして、256ページ以上はあまり見ませんね。規格に合わせて本を作るというタイプのレーベルだなと感じます。

名久井 ほんとだ。全部だいたい同じ厚さですね。『ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン)や『ドーパミン中毒』(アンナ・レンブケ)全帯なのに、帯がかかっているかと思いきや、ニセ帯……?

奥定 本当だ。帯風デザインですね。あっ、新潮新書からこれにしようかなあ。國分功一郎さんの『目的への抵抗――シリーズ哲学講話』。國分さんの『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)、面白かったですから。これは講義録なんだ。

名久井 私は光文社新書の『イギリス王家12の物語』(中野京子)がすごく読みたいんだけど、今日は新書のデザインのお話なので、全帯を選ぶのは面白くない気もするな。

奥定 ちくまプリマー新書はどうですか。

名久井 (ちくまプリマー新書を手に取って)なるほど。これは、クラフト・エヴィング商會ですね。

奥定 すごくいいですよね。紙の使い方もあんまり他には見ない感じ。

名久井 ね。クラフトさんっぽい。

編集部 ちくまプリマーさんは新書だと圧倒的に(本の重量が)軽いんですよ。

書店員 対象年齢が低いから、持っていて重くならないように、なんですかね?

名久井 でも、歳をとっても軽い方がいいですよね(笑)。

奥定 むしろ歳をとってからの方がありがたいですよね。クラフト・エヴィング商會の、吉田さんがご自身で書かれたものもあるんだ。『つむじ風食堂とぼく』。すごい、特別な組ですね。

名久井 これ、文字がネイビーじゃないですか。

奥定 ネイビーですね。スミではない。

名久井 いいですね。うーん、好きだなぁと絶対分かっているんだけど、未知の世界に飛び込んでみるか……。ちくまプリマ―新書の『宇宙最強物質決定戦』(高水裕一)、面白そう。今日本屋で出会わなかったら、私は絶対手に取るチャンスがなさそうな本にしようかな。『宇宙最強物質決定戦』は「なんの決定戦だっけ……?」となって、思い出せなそう(笑)。

(目次を見ながら)あっ、かっこいい。……ダークマター。うち、猫のお腹に毛玉ができるんですけど、それをダークマターって呼んでる(笑)。これにします。

――さて、NHK出版新書です。

奥定 いよいよ。あ、お笑い芸人のチャド・マレーンさんの本がありますね。『世にも奇妙なニッポンのお笑い』。実は友人の横浜聡子監督が、PVを撮ったんですよ(100s『そりゃそうだ』)。それにチャドさんが出てて。うちの犬も出てて。僕もスケーターとしてちょこっと出てる(笑)。これにします。

名久井 私は『コケはなぜに美しい』(大石善隆)にしよう。これに載ってるかもしれないけど、銀閣寺に悪いコケ・いいコケというのがあるんですよ。柵に囲まれていて、ちゃんと看板があって、悪いコケ・いいコケって。かわいそうだなと思って。(笑)

編集部 コケに貴賤はないはずなのに(笑)。これは全帯の写真も含めて、著者が約250点の写真を全てご自分で撮っているんです。

奥定 そうなんですか。きれいに撮ってますね。

名久井 この本の話ではないですが、写真の良い悪いではなく、他の帯で使っている写真を見ると、新書らしいトーンがありますよね。何て言ったらいいんだろう。浅い写真が少ない。みんなギュッとしてる。そこに新書感があるなあと思います。

奥定 ふわっとしてないですよね。力強い感じ。

――インパクトがある感じですか?

名久井 インパクトというか。トーンの問題なんだけど。

奥定 でも、出そうとしてるのはたぶんインパクトかな。

名久井 かもしれませんね。新書が求めてるインパクトの種類がみんな近いんじゃないかなという気がする。

■メチエの装丁家、かく語りき

――いつもは新書だけなんですが、本日は選書の棚も見てみましょう。奥定さんが装丁をされている講談社選書メチエのコーナーに来ました。

奥定 (通巻番号の)500から担当していますね。

名久井 毎月、定期的にやってるの? すごー! 教えて、解説して。

奥定 まずは、これがここ数年だと一番売れたんじゃないかな。マルクス・ガブリエルの『なぜ世界は存在しないのか』。

書店員 めちゃくちゃ売れましたね。

名久井 箔だ!

奥定 ありがとうございます。ピンク箔を使わせてもらったんですよ。

箔にテンションが上がる名久井さん

名久井 いい紙を使ってますね。紙はいつも一緒なんですか。

奥定 一緒です。表紙はペルーラを使っています。

書店員 最近のメチエのデザインはテカテカしているような気がします。

奥定 ジャンルによってPPをかけるか、ニスにするのかを決めています。そのジャンルというのも僕が勝手に決めてるだけなんですけど。

名久井 俺がジャンルってこと?

奥定 そう、俺がジャンル(笑)。

名久井 そしたら『なぜ世界は存在しないのか』にします。箔ですし。

書店員 私は『オカルティズム』が印象的ですね。

奥定 オカルトだから、真っ黒と金とで。

書店員 こんなことができちゃうんだと思いました。

名久井 写真や絵はどうやって選んでいるんですか。私の仕事はフィクションが多いんで、こういうノンフィクションってどういうひっかかりで選ぶのかとても気になります。

奥定 例えばハンナ・アレントがテーマであれば、アレントの写真。『ドゥルーズ=ガタリ』なら、ドゥルーズ=ガタリのあの有名な写真。

名久井 人がテーマだとわかりやすいですね。

奥定 この『非有機的生』(宇野邦一)の場合は、これはマルセル・デュシャンの別名で発表した作品を使いました。こういう画像を使ってほしいと、編集者や著者からリクエストがある場合も、ない場合もあります。

名久井 でも「精神」とか困っちゃうよ。「精神」とか「経済」とかさ、どうやって絵にしたらいいんだろうと思っちゃいますね。『銭躍る東シナ海』(大田由紀夫)……こんなのどうするの。

名久井 あっ、銭躍ってる(笑)

奥定 わりとそのままですね(笑)

名久井 一番苦労したやつはどれですか。

奥定 最近だと『恋愛の授業』(丘沢静也)ですかね。いっぱい案を出したんですよ。もっとファンシーなやつも出したんですが、なかなか意見が合わず。

名久井 むしろ私、こっちのほうがやりやすいかも(笑)。

奥定 あとは『万年筆バイブル』(伊藤道風)も装丁に悩みましたね。

名久井 かわいい。これは描いたんですか。普通のかわいいやつもOKなんですね。口絵もたっぷりありますね。

奥定 そうそう。この本は口絵がたっぷりなんですよ。

名久井 写真が楽しい新書があってもいいかもしれませんね。さっきのコケの本もよかったですし。

編集部 そのアイディア、いただきたいです。

名久井 毎月1~2点担当されているんですか?

奥定 そうです。同時並行でやっているときもありますし、何か終わったら次が来てという状態ですね。目次や章トビラもやっています。

名久井 フォーマットを統一してないの?

奥定 してない。

名久井 すごいなぁ。あっ、この本面白そう。『日本人の愛したお菓子たち』(吉田菊次郎)中を見ると楽しそうな本ですね。

奥定 そうなんですよ。でも表紙は人文書っぽくしました。あえてレトロ感を出すといいますか。全ページカラーです。

名久井 万年筆に駄菓子、メチエの棚でこういう本を読めるのは意外でしたね。

■そこにチーターがありけり

――ちくま選書が近くにありますね。

奥定 山本貴光さんの本がある。『記憶のデザイン』、面白そう。でもこれは四六判なので、新書なのか……?

編集部 新書ではなく、正確には選書です。

名久井 選書と新書の違いはなんですか?

編集部 非常に難しい質問ですね……。

書店員 新書よりも専門性が高いと言いたいところですが、今の新書は専門性が高くなっていますよね。

編集部 そうなんです。本来はお手頃な値段で一般向けなのが新書で、もう少し値が張って専門性が高いのが選書でした。ですが今は比較的高価で、専門性が高い本も新書から出ているんですよ。だからはっきりと違いを言うのは難しい。でもNHK出版の場合、新書と選書では初版の数がけっこう違いますね。

名久井 なるほど。ちなみにNHKブックスは選書ですか?

編集部 今のカテゴリーだと選書になりますが、創刊された60年ほど前には、選書と新書の中間を目指していました。だから判型もB6判で、他の選書と大きさが違うんです。

――すぐそばにNHKブックスがあります。

奥定 NHKブックスの装丁は、水戸部功さんですね。

名久井 ああ、やっぱりきれいですね。この、名前の下にアルファベットで読み方を入れるのは自分が始めたんだって、菊地信義さんが前におっしゃってました。

奥定 そうだと僕も思ってました。水戸部さんになって、表紙にはビジュアルは使わず、文字だけなんですか?

編集部 そうですね。カバーは文字だけにして、帯でビジュアルを使うという形です。

名久井 リーズナブルでいいですね。本文の級数がけっこうゆったりしていて、読みやすくなっている。

NHKブックスの棚

名久井 あ、こんなところにも棚が。丸善ライブラリー、かっこいい。初めて見ましたけど、すごい好き。チーターですよ。かっこいい。

奥定 全部の本がチーターなんだ……。

名久井 新書のフォーマット作ってと言われて、これ、なかなかできないですよ。すごくかっこいい。「ちょっとチーター、入れてもいいですか」って言えないよ。

奥定 うん。チーターっていうのがすごいですね。

名久井 かっこいい。いいなあ。自由だなぁ。

――というわけで、一通り回っていただいて、いかがでしたか?

名久井 実は書店にあまり行ってなくて……。それはあまりの本の量にくらくらして、自分が仕事をしていないような気持ちになるので、元気な時にしか行けないからなのですが、今日はその中でもほとんど足を踏み入れていなかった新書コーナーをものすごく楽しみました!
新書は簡素なスタイルで、帯もそんなになく、文字だけで内容を判断して購入するものかと思っていたのですが、なかなかの派手さに驚きました。だんだん新書とふつうの単行本の境目もなくなってきているのかもしれませんね。硬軟取り混ぜた世界がわかりましたので、これからは怖がらず新書棚に来ようと思います!

奥定 僕も普段は新書の棚にはあまり行かないのですが、久しぶりに見るとずいぶん派手な感じになっていて、面白いですね。オビなんかも。オレを読め!って感じで(笑)。
何かを目指して本屋に行くのでなく、なんとなく読みたい本を探すときは、新書や選書の棚を見るのがいいかもしれないですね。新しいジャンルに挑戦するときとかも。宝探し感がハンパないです。

編集部 ありがとうございました!それでは、下の階でお会計をしましょう。

<名久井直子さんが選んだ5冊>
・マルクス・ガブリエル/清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)
・今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』(中公新書)
・池内了『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書)
・大石善隆『コケはなぜに美しい』 (NHK出版新書)
・高水裕一『宇宙最強物質決定戦』(ちくまプリマー新書)

<奥定泰之さんが選んだ5冊>
・ 山本貴光『記憶のデザイン』 (筑摩選書)
・荒俣宏『サイエンス異人伝』 (ブルーバックス)
・吉増剛造『我が詩的自伝』 (講談社現代新書)
・チャド・マレーン『世にも奇妙なニッポンのお笑い』(NHK出版新書 539)
・國分功一郎『目的への抵抗』(新潮新書)

(2023年6月1日、ジュンク堂書店池袋本店にて)

構成:山本ぽてと

第7回へ続く
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