しんどい症状を責めるわけでもなく、ただ、わらいに変えて。「わらいに」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#41 わらいに
あだ名をつけられた経験はあるだろうか。もしかしたらそれはいい思い出かもしれないし、ひとによってはいやな経験だったりするだろう。今回は、こどくがあだ名をつけられた「いい思い出」に関して、つづっていこうと思う。
こどくは小学生のとき、走るのがとてもおそかった。50m走では10秒を切るどころか、学年で最低記録をたたき出した。こどくの小学校にはマラソン大会があったが、こどくは大会に参加した生徒のなかでだんとつでおそく、ゴールしたときに拍手が起こったほどだった。
だが、体育全般がにがてだったわけではなかった。こどくは泳ぐことが唯一とくいで、クロールだと、同じ25mでもハードル走よりもはやかったほどだ。学年で水泳大会のリレーの選手にも選ばれた。
そんなこどくにつけられたあだ名は「ぺんぎん」。陸ではよちよちとゆっくりあるき、水に入るとすいすい泳ぐ。たしかに、こどくに近い。こどくはそのあだ名をたいへん気に入った。
さいきんつけられたあだ名は、「人間ジュークボックス」。これは、統合失調症の症状から、かぞくにつけられたあだ名だ。
統合失調症のこどくの脳内では、じつはつねに、音楽が鳴り響いている。エッセイを書いているたったいまも、だ。そんななかで生きているから、音楽が止まらなくて眠れない日や、授業に集中できない日もしょっちゅう。ひどいときには、音楽が3曲同時にばーっと流れてきて、いつまでも止まらないときもある。
ジュークボックスとは、お金を払って音楽を聴くことができる筐体だ。いまはデジタル社会で、スマホでちょちょいっとすれば音楽が聴けてしまうが、かつてはそうではなかったらしい。しかし、もちろんだいぶ前の話だ。こどくも、ジュークボックスは人生でいちどしか見たことがない。
そんなジュークボックスと人間を組み合わせて、「人間ジュークボックス」。たしかに、またまたこどくに近い。お金を払わずとも、音楽をいつでも、どこでも聴くことができる。こどくはジュークボックスの進化系かもしれない。
こどくは、かぞくにそう言ってもらえてうれしかった。しんどい症状を、こどくを、責めるわけでもなく、ただ、「そんな感じだね」とわらいに変えてしまう。すごくよいことだ。こどくも、なんでもかんでもわらいに変えられるような、そういうひとでありたい。
#42へ続く
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。