多岐にわたるからこそ、決めつけないで。「いいか、こどくは」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#36 いいか、こどくは
こどくが活動をはじめた日。統合失調症VTuberとして、YouTubeに動画を投稿しはじめた日。忘れもしない、2021年の、7月7日。こどくは、緊張で震える指で、「投稿」のボタンを押した。
「生きてるだけでえらい」「生きててくれてありがとう」と世界に届けたい。そして、「統合失調症」のことを、もっと知ってもらいたい。その一心だった。
ありがたいことに、その後、こどくの活動はさまざまなメディアで取り上げられることとなった。
活動をはじめる前は、こんなに反響があるとは思っていなかった。
そして、すこし有名になると、かならず言われたことがあった。
「本当に統合失調症当事者なの?」
こどくは詐病していると思われたらしい。たしかに、その当時、こどくはちょっと病弱なひとくらいにしか見えなかっただろう。はつらつとはなし、体調不良を「ななめちゃん」と呼び、ときどきななめちゃんが来て配信できないときもあるが、まわりにはいつもげんきそうに見える、と、思う。そう思われてもしかたない。
しかし、ここまでのエッセイを読んできた君にならわかるだろうが、こどくはれっきとした統合失調症当事者だ。陽性症状、陰性症状、認知機能障害。統合失調症における症状は、どれもおぼえがある。
そう説明していても、たまに、ごくごくたまに、こどくは詐病していると思われる。インターネット上で書きこまれたことも、直接言われたことも、あるいは、診断がひっくり返りそうになったこともある。げんきそうに見える。ただ、それだけで。
こどくにだって、しんどいときはある。しんどいときに、なるだけ活動をしないようにしているだけだ。
「げんきそうに見えるから」というだけで、統合失調症当事者であることを否定されたこどくは、「このひとは、こどくがしんどかったこと、そしていつまたしんどくなるかわからないことを、わかってくれないんだ」と思った。そして、それがおおきな偏見のもとに成り立っているという事実に、気がついた。
「統合失調症当事者はこうあるべきだ」という、偏見。そのなかに、こどくは含まれないときがあるのだ。
統合失調症の症状は、多岐にわたる。それなのに、「こうあるべき」と決めつけてしまうと、当事者として認めてもらえないひとが出てきてしまうのだ。
活動をはじめたときは、まさかこどくが詐病していると疑われるなんて思っていなかった。でもそれだけ、統合失調症に対する偏見や無理解がおおかった、ということだろう。
だからこどくは、声を大にして言う。いいか、こどくは、統合失調症当事者だ。
#37へ続く
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。