この先に待っているはずの、たのしいたのしい人生を。「やすみやすみ」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
※#0から読む方はこちらです。
#35 やすみやすみ
こどくが、自分が統合失調症という「病気」にかかっていることを自覚したのはいつだろう。幻覚が見えたとき? 被害妄想におそわれていたとき? 自分が自分だとわからなくなっていたとき?
いや、ちがうだろう。こどくは闘病中に過ごした、おだやかな日々のなかで、すこしずつ、気づいてきたように思う。
自分は精神疾患、統合失調症にかかったのだ、こどくを苦しめる症状から逃げるために、ここでやすんでいるのだと。精神的にも、肉体的にも、そう思えるほどに回復するまでは、ながい時間がかかっている。
こどくは退院したあと、ながきにわたる療養と陰性症状のせいで動けなかった時期があった。それでも、かつて当たり前のようにできていたことを、当たり前のようにこなそうとした。
こどくは大学受験に挑戦することになった。そのときのおはなしは#5にまとめているので、余裕があるひとはそちらを読んでほしい。
はしょって伝えてしまえば、その挑戦は統合失調症の再燃によって失敗となった。再燃とは、症状がまたぶりかえしてしまうことだ。そして、こどくはその失敗を、その後の人生のなかで、なんども経験することとなる。
ちょっとげんきになってきたから、そろそろ力を入れてやってみるか。そのきもちが、皮肉にもいつも再燃へ向かわせた。先述した1回目の大学受験もそう。再燃してしまえば、あきらめるほかなかった。
こどくはいまでこそ、「あのときやすめてよかった」と思えるが、当時はまったくもってそうは思えなかった。挑戦するたびに、再燃し、主治医に、かぞくに、止められ、発症当時より症状が重くなることもあった。そして、力を入れられないこの体を、病気を、憎んだ。
そんな、挑戦と失敗をくりかえし、いま、こどくはここにいる。いつのまにか、やすむことが習慣化し、全力を出さない、むりをしないことができるようになっている、と言いたいところだが、まだまだむずかしいだろう。
こどくの闘病歴は6年だ。23歳にもなった。でも、人生これから。こどくより闘病歴の長い先輩がたも、ごまんといる。まだまだひよっこのこどくは、これからも、挑戦と失敗をくりかえしていくのだろう。
そんな日々のなかで、こどくは気づいていく。こどくは統合失調症なんだ。もう前のように全力なこどくはいないけれども、やすみやすみ、生きていくのだ。この先に待っているはずの、たのしいたのしい人生を。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。