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今度は自分が君の救いになりたい。「休息になるから」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#43 休息になるから
こどくは、じつは大のVTuberファンである。活動上でもあまり話さずにいたが、いわゆるVTuber黎明期と呼ばれる時代からVTuberを知っている。当時はまだ世間に知られていなかったこの文化だが、こどくは毎日のようにVTuberの動画を見漁っていた。
2018年。こどくの統合失調症の症状がいちばん重かったころのはなしだ。こどくは、ずーっとリビングのソファにねっころがって、iPadで動画を見ていた。その時間が、当時こどくに与えられた、唯一の休息だった。なぜなら、こどくのあたまのなかで鳴り響く幻聴が、そのあいだだけ、聞こえなかったからだ。
あたまのなかがありとあらゆる不快な音で渋滞している、と言えばわかってもらえるだろうか。こどくはそんな日々のなかで、どう生きてもしんどい状態になっていたのだ。
はじめは、それこそ現在でも超人気のYouTuberの動画を視聴していたが、おすすめに出てきたキズナアイさんをきっかけに、VTuberにのめりこむこととなった。なぜのめりこんだのがVTuberだったのかは、いまだにわからない。でも、こころの休息として、彼女ら彼らは、たしかにこどくを癒やしてくれた。
のちに考えてみると、「情報が少ない」ことがよかったのかもしれない、という結論にたどり着いた。3Dもしくは2Dだけの、アニメチックな空間。なにもかもに敏感になっていたこどくは、そこに幻聴からの逃げ道を見つけたのかもしれない。
敏感になっていた、とは、どういうことか。こどくは無類の本好きだったが、統合失調症を発症して、本屋さんに行けなくなった。並べられている本の帯や表紙や背表紙が、いっぺんにこどくに話しかけてきているように思えていたからだ。あたまのなかがここでも渋滞してしまって、こどくは本屋さんに行くことをあきらめた。
だから、こどくにできたことと言えば、インターネットに逃げることだったのだ。でも、それは正解だった。それまでアニメはちょっとかじるくらいのオタクだったこどくが、VTuberと運命の出会いを果たし、そして自分もVTuberデビューを果たすに至ったのだから。
あのときのこどくは、まさか自分がVTuberになるとは、夢にも思っていなかっただろう。あこがれの先輩がたと肩を並べて、堂々と活動することができるとは。
iPadの向こう側の世界へ来て、こどくはたくさんのひと、ものと出会った。知らなかったことも、たくさん知った。こどくはいまでは、本屋さんにだって行ける。幻聴も、もう聞こえない。だからこそ、こどくは願う。今度はこどくが、救いたい。統合失調症でしんどいひと、ほかの病気でしんどいひと、生きているだけでしんどいひとへ。こどくが君の、休息になるからね。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。