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自分でも謎のおかしな癖 「これって、私だけ?……こだわりがあるのか、ないのか」――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

本がひらく

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。
第1回からお読みになる方はこちらです。


#05
これって、私だけ?……こだわりがあるのか、ないのか

 ふと、「うちは家族みんなでお風呂に入ってますよ。さすがに全員は狭くて無理ですけど」と、中高一貫の女子校時代に2つ下の学年の後輩に言われて唖然としたのを思い出した。「それが何か?」と言わんばかりに、セミロングの毛先をくるくるいじりながら話すものだから、驚いている私がおかしいのか? という雰囲気になった。当時の私は高校2年生、彼女は中学3年生だった。厳しい我が校の校風にあまり適していないというか、なかなかのお転婆で(我が校から見たら、のレベルだが)、宿題はやらない、制服は改造する、男女交際をほのめかすなど、当時の学内では「困った生徒だ」と思われていたらしい。しかしどういうわけか、可愛らしい容姿も相まって憎めない後輩で、学校に伝わる縦割りの奉仕活動組織(全学年のクラスから無作為に1人ずつ集めて35~40人構成の班を作り、掃除やレクリエーションを通して年の違う仲間との付き合い方を学ばせるねらいらしい)で知り合ってからは、卒業まで交流を続けていた。教師から呼び出されては説教されているお転婆娘は思春期真っ只中。「パパの下着と自分のを一緒に洗わないで」なんて言うかと思いきや、家族仲良く風呂に入っているとは、私の中に走った衝撃は相当なものだった。たしか5人か6人家族で兄弟もいると聞いていた。組み合わせによっては兄や弟と? お父さんとも? と聞きたかったが、詳細を耳に入れる勇気がなかった。なにせ私も思春期だったので。
 我が家はしばらく父と母、祖母と私の4人暮らしだったが、父とは銭湯に一緒に入れない年頃になってからは(当時年齢制限については曖昧で、たしか私が10歳くらいまでは一緒に男湯に入れた記憶アリ。さすがに父から「もう女湯に行きなさい」と言われて終了する)、風呂は1人か母や祖母と入るのが日常だった。だから、だいたいの家族がそんな感じの流れを経て、大人になって旅行先の家族風呂で同性の親やきょうだいたちと一緒に入浴したり、恋人や配偶者と嬉し恥ずかし一緒にお風呂タイム……なんてイベントに限ったスキンシップをするものだとばかり思っていた。今思えば、世間知らずの自意識過剰は私のほうだった。先輩風を彼女に吹かせていたのが恥ずかしい。
風呂に関する「私だけだろうな」と思う話につなげたくて前述のような後輩のエピソードを披露したのだが、彼女のエピソードのほうが衝撃的すぎて、これから語る私の話はインパクトに欠けるんじゃないかとちょっと心配になってきた。しかし、これをしているのは私以外に聞いたことがない。それは風呂に入浴剤を入れた際、必ず空いた袋に水を付けてタイルや鏡に貼り付け、お湯を抜くまで「これを入れました。こんな効果があります」的な主張をすることだ。よく温泉の湯船近くに掲げられた泉質や効能を記した看板の真似事を無意識にやっているのだろう。入浴剤の存在を知った幼少期からずっと続けている。一人暮らしからの別居婚をした今でも、自分に向けて発信するかのごとく空き袋を貼りつづけ、掃除とともにはがして捨てる。ちゃんと効能や特色を目にして、脳にも刻みこむほうが入りがいがあるような気がして……。実家にいた頃は母に「またやってる」と笑われたが、止められることはなかった。母も娘のおかしいけれど面白い個性として受け入れてくれたのはありがたかった。
 このように、こだわりがある部分はとことん長くこだわっているが、こだわりがない部分は「どうでもいい」とハッキリ態度に出てしまう。周囲に驚かれたのは焼き肉やバーベキューの食べ方だ。とくに焼き肉はマネージャーか家族としか行かないことにしている。そして、マネージャーか家族が焼いたものを皿にのせてもらい、それを食べる……いや、それしか食べない。焼くのは基本的に親か男性だと勝手に決めており、その人が焼いたものならどんな焼き加減でもこだわらずただ食べるのだ。自分で網に肉をのっけたことはほとんどない。なんてワガママ、と受け取るか、なんてこだわりがない、と受け取るかは人によるが、肉が熱くても時間が経過して冷めても、硬くても柔らかくてもとくに気にならないと言うと、だいたいの方は「焼き肉に向いてない」と苦笑する。
 なぜこんな癖がついたのか。自分のことなのにわからない。おそらく……おそらくだが、小学生くらいのとき、テレビから流れる海外のホームドラマをよく観ていた。そこでは一家の長が祝日や来客があるとホームパーティーを企画する様子が頻繁に描写されていた。エプロンをまとい、ブロックの肉を切り分け、バーベキューのトングを持ち「さあ、みな食べなさい」と奮闘している姿が映っていたのを覚えている。そこで、「肉はお父さんや一家の大黒柱が焼いたり調理したり切り分けたりするんだ」と解釈したのがきっかけのような気がする。家族はともかくマネージャーは一家の大黒柱ではないが、家族同然の関係だし目上だし、私に仕事を渡してくれる人だからカウントしているのかもしれない。

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プロフィール
壇蜜(だん・みつ)

1980年秋田県生まれ。和菓子工場、解剖補助などさまざまな職業を経て29歳でグラビアアイドルとしてデビュー。独特の存在感でメディアの注目を浴び、多方面で活躍。映画『甘い鞭』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『壇蜜日記』(文藝春秋)『たべたいの』(新潮社)など著書多数。

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