体調を戻すことがなによりだいじだから、ゆっくりやすもう。「むりなときはある」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#5 むりなときはある
こどくは、16歳で統合失調症を発症し、高校に通えなくなり、長い休学期間を経て、20歳で高校に復学し、21歳で大学1年生となった。ようするに、高校に6年通ったのだ。
その6年間、さまざまなことがあったが、印象に残っているのは、1回目の大学受験である。
こどくは大学受験を2回経験している。実質的に言うとはじめの1回は未遂、というか、はじめる前に、体調をくずしてしまった。そんな体調をくずしたことから未遂に終わった1回目の大学受験、こどくは、塾に通っていた。
それまでこどくは、塾とは無縁の生活を送っていた。高校は塾に通わずに合格したし、そもそも、学校の勉強だけで日常生活に事欠かなかった。
しかし、大学受験となると話は変わってくる。それまでの受験とくらべると各段に内容が難しくなるからだ。そのうえ統合失調症を発症したことで、認知機能が低下し、勉強すること自体、にがてになっていた。
そんなこどくが選んだのは、できるかぎりむりをしないですみそうな塾。授業はオンラインで、宿題の量も生徒に合わせて調整してくれる。その塾にたどり着く前にいろんな塾へ体験入学したし、塾以外の方法も考えた。長い間探しまわって、ようやくこの塾、と決めることができた。
そうしてはじまったこどくの塾生活。体調を考え、いちにち3時間までしか勉強しない、と決めた。しかし、終わるのは早かった。
塾へ通いはじめて1か月もしないうちに、体調不良におそわれた。
ベッドから起きあがれない。起きあがれても、ぼーっとして、頭がうまく動かない。やりたいこともできないし、やらなきゃいけないことすらできない。先生から出された宿題も、ほとんど解けなくなった。
そして、統合失調症が「再燃」している、と主治医から伝えられた。
「再燃」とは、おくすりをしっかり飲んでいるにもかかわらず、病気の症状がぶり返してしまうことだ。こどくはおおきめの大学病院へ通うことになった。
もちろん、塾へは通えなくなった。たくさん買った参考書も、気づけば本棚でほこりをかぶるように。でも、体調を戻すことが、なによりだいじだった。
これが、こどくの1回目の大学受験挑戦の一部始終だ。こどくはそのあと、高校に通いなおし、2回目に挑むことになるのだが、そちらはなんとか合格し、ようやく大学に通えるようになる。
大学に入ってからのひと悶着はまたこんど話すことにして、さいごにひとことだけ伝えたい。
どんなことでも、むりなときはある。そんなときは、むりせず、ゆっくり、やすもう。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。