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小説・エッセイ

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人気・実力を兼ね備えた執筆陣によるバラエティー豊かな作品や、著者インタビュー、近刊情報などを掲載。
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2023年10月の記事一覧

この怒りが何かを考えよう――「不安を味方にして生きる」清水研 #10 [喪失体験との向き合い方②]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #10 喪失体験との向き合い方②怒りの役割  怒りという感情は、「こうあるべきだ」という自分の理想や価値観が理不尽な形で侵されたときに生じます。そして怒りの役割は、

サボる哲学 リターンズ! 第3回 愛でしょ ~一六〇〇キロ、われ歩くがゆえに歩く

我々はなぜ心身を消耗させながら、やりたくない仕事、クソどうでもいい仕事をし、生きるためのカネを稼ぐのか? 当たり前だと思わされてきた労働の未来から、どうすれば身体をズラせるか? 気鋭のアナキスト文人・栗原康さんの『サボる哲学』(NHK出版新書)がWEB連載としてカムバック。万国の大人たちよ、駄々をこねろ! 無職は無敵なのだ さて、たのしかった一八〇日連休もついにおしまい。きょうから週二日のハードワークでございます。休みが恋しい。ということで、ひとつ連休中に感動したはなしなど

負の感情はこころを癒やす――「不安を味方にして生きる」清水研 #09 [喪失体験との向き合い方①]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #09 喪失体験との向き合い方① 前回まで、不安との向き合い方について考えてきました。不安はこころに危険を伝えるアラームのような役割であり、「未来に起こる問題を回避す

「日記の本番」9月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。くどうさんの9月の「日記の練習」をもとにしたエッセイ、「日記の本番」です。 ゆきちゃんのガラケーを借りて、10年前書いた日記を読んだ。高校生の時にわたしが日記を書いていた「ホムペ」は、サービスが終了してしまったのでもう二度と見ることができない。もう一文字も読み返すことがないと思っていた日記を大事に保存してくれていた人がいて、その人が、仙台のサイン会でそのことを教えてくれなければ、わたしはもう

言葉の「ば」を「ぱ」に変えて「ことぱ」。――「ことぱの観察 #02〔遊びと定義〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 遊びと定義 十年くらい前、インターネットで、ハンドルネームの頭文字を「ぽ」にするとかわいい、という遊びがあった。「あいこ」さんなら「ぽいこ」さん、「木原」さんは「ぽはら」さん。わたしはそのとき「ふみ」という名前を名乗っていたから、「ぽみ」。これを気に入って、「ふみ」を名乗らなくなったいまだに、ときどき

スウェーデン人作家と日本人アーティストの共作絵本。ブランディングコピーライターの坂本和加さんが翻訳を担当!

本日10月25日、NHK出版からスウェーデン発の絵本『ヌードルたべるプードル』がいよいよ刊行されます。発売を記念しまして、訳を担当した坂本和加さんからお話をうかがいました。 ──まず、編集担当者に刊行までの経緯を聞いてみましょう。この絵本とは、どこで出会ったのですか? 編集者:2022年の秋、スウェーデン大使館主催のスタディツアーに参加し、ストックホルムのエージェントオフィスを訪ねたときです。プードルの表紙に一目ぼれという感じでした。絵を描かれている方が日本人の方だと知り

あなたの強い味方、こっそり教えてください――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は、愛用品ではないけど、つい手に取ってしまうアイテムについてのお話です。 ※当記事は連載の第31回です。最初から読む方はこちらです。 #31 頼れるアイツ 10月に入ってようやく空が高くなって、いろんなバリエーションの雲を楽しめるようになった。しかし、冬の入り口のごとく寒い日と、猛暑風味な日が交互にやってくるので、みんなそうだと思うが、体調管理が難しい。そん

たったひとりでも、届けたい相手に届けば……――「マイナーノートで」#31〔なぜ書くか?〕上野千鶴子

なぜ書くか? 自分がものを書いて生きるようになるとは思わなかった。  小さい頃から読むのも書くのも好きだった。だが書くことで生きる道は、ハードルが高そうだった。お金に換えなくてもすむのなら、書くことと読むことで人生を過ごせたらこんなによいことはない、と思えた。老後は何をして過ごす? という問いに、わたしと同世代の沢木耕太郎さんが、「書くことと読むことがあればじゅうぶん」と答えていたのを見て、わが意を得た思いだった。だから失明するのがこわい。読めなくなるからだ。最近ではパソコ

誰のためのオリンピック・パラリンピックなのか――『総理になった男』中山七里/第13回

「もしあなたが、突然総理になったら……」  そんなシミュレーションをもとにわかりやすく、面白く、そして熱く政治を描いた中山七里さんの人気小説『総理にされた男』待望の続編!  ある日、現職の総理大臣の替え玉にさせられた、政治に無頓着な売れない舞台役者・加納慎策は、政界の常識にとらわれず純粋な思いと言動で国内外の難局を切り抜けてきた。東京でのオリンピック・パラリンピック開催を控える日本。莫大な経済効果を考えれば是が非でも開催したいところに、未知のウイルスに重ねてさまざまな問題が日

「日記の練習」9月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの9月の「日記の練習」です。 9月1日 どうしてパーマかけたんですか?と訊かれるたびに、この人はきっと前の髪型のほうが好きだったんだろうなと思う。自分でもうまく言えないけど、皆が好きそうで、自分に似合うこともわかっている髪型でいることが突然ダサいようなきがしてきたんです。とも言えず、いやァ~イメチェンしたくってねえなどへらへらしてしまう。ややこしいやつである感じを髪型から表し

たくさんの言葉を、ほんとうは見過ごしながら暮らしている。――「ことぱの観察 #01〔友だち〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 友だち「いろんな言葉を定義していく、みたいなのはどうでしょう」  編集者さんとの打ち合わせで連載のテーマをそう提案してもらって、真っ先に思い浮かんだのは、友だちとの会話によく出てくるひと言だった。たとえば、わたしが愚痴を聞いてもらっているとき。 「もうほんとに最悪。終わりです」 「ブチギレやんか」 「

自分を語る言葉を得る――#4ローレン・グロフ『優美な食用の鳥たち』(1)

文学を内側から体験する  大学で教えるのがとても好きだ。特に好きなのが短篇小説を読む授業で、基本的には学生たちに輪になってもらって、作品を読んでどう思ったか、どこが面白かったかをひたすら話し合う。もちろん、作品の背景説明や、読んで難しかったところの解説もするのだが、そういう知識を伝えたり、英語力を上げたり、といったことは授業の中心ではない。  むしろあくまで、作品を通して自分自身の心と向き合ってもらうことを大事にしている。そうすると思わぬ本音が出てくる。他の人から、自分

【怪談】「決して入らないでください」と言われた部屋で見てしまったもの

怪奇体験から垣間見える、現代社会の実像と歪み――。  2020年からNHKで不定期に放送され、SNSで話題となった「業界怪談 中の人だけ知っている」。番組の再現ドラマをもとに体験者ひとりひとりに徹底追加取材し、より恐ろしく、より不可思議に、全16篇からなる怪談として新たに描き出すことで各業界のリアルに迫った書籍『業界怪談 中の人だけ知っている』が本日発売です。  “事故物件住みます芸人”松原タニシさんが「自分一人の人生では体験できぬ怪異、まさに「私の知らない世界」」と評した本

謎校則「トマトを選んではいけない」?――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #18 理解不能な校則たち 最近の学校では、運動部に所属していても「男子生徒は丸刈りにしなくてはいけない」という規則はあまり見かけないという。私が学生の頃は(女子校だったが)運動部に所属する男子