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小説・エッセイ

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人気・実力を兼ね備えた執筆陣によるバラエティー豊かな作品や、著者インタビュー、近刊情報などを掲載。
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2021年7月の記事一覧

介護される者の哀しみ――「マイナーノートで #04〔憤怒の記憶〕」上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 憤怒の記憶  辺見庸さんは、ずっと気になる書き手だった。生活クラブ生協連合会に辺見さんのファンがいるらしく、同会の機関誌『生活と自治』というマンスリー・レポートに、長期にわたって「新・反時代のパンセ――不服従の理由」と題する連載がある。毎号届くたびに、どきどきし

はしゃげるチャンスに貪欲たれ――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は、コロナ禍で失われた楽しみを、久しぶりに親子で楽しんだ様子をお伝えします。 ※当記事は連載の第4回です。最初から読む方はこちらです。 #4 顔ハメ看板  この一年で近所の公園はあらかた遊びつくしてしまった。全ての遊具のクセのようなものまで完全に把握している。通りから回転するジャングルジムをちらっと目にするだけで、子どもを真ん中に乗せてグルグル回す時の軋みや

私はとても上手に針を刺すことができます――日常に潜む狂気を描いたサイコサスペンス小説「ここからは出られません」藤野可織

 妊娠安定期に入った鳩里鳩子だが、彼女の心配は尽きない。  彼女の信念では、生まれてくる子はあらゆる意味で「完璧」でなければならないのだ。  自然かつ完璧な状態で、すべての「特権」を掌握できる存在……。  そんな彼女が選んだ選択は――。  ※当記事は連載第4回です。第1回から読む方はこちら。  私がそれを申し出たとき、私の産婦人科医はぎくりと肩を震わせる。羊水検査だ。私のつわりはすっかりおさまっている。尿検査でもケトン体は出ていない。すべての数値が正常だ。胎児にも問題は見ら