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過ぎ去ったものに、もし、は訪れない。だからせめて、知ってほしい。「もしは訪れない」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#6 もしは訪れない

 こどくは、統合失調症にかかるまで、統合失調症の「と」の字も知らなかった。だから、はじめてこの病気の名前を知ったのは、診断がおりたときのことである。
 統合失調症とは、脳の病気で、陽性症状、陰性症状、認知機能障害といった諸症状がある。診察室で、おそらくお医者さんはそんなことを説明していたのだろうが、残念ながらこどくの記憶にはない。
 こどくはそのとき、自分が自分であることも、かぞくは味方だということも、そもそもそのとき病院に来ているということも、あまりわかっていなかった。つねに頭のなかでは「しね」と言われていたし、悪口が鳴り響いていた。とにかくつらくて、この「24時間ホラーゲームの世界」からつれだしてくれ、と思っていた。
 この病気になる前、じつは兆候があった。
 きっかけは、診断がおりる半年ほど前。唐突に、高校へ行けなくなった。それまでの高校生活はたのしく、おともだちもたくさんいたにもかかわらず、だ。高校へ行こうとすると、吐き気が止まらなくなり、実際に吐いてしまう日もしょっちゅうだった。高校の方向とは正反対の電車に乗ってしまうことも、駅までたどり着きはしたもののホームで動けなくなったこともあった。やがて心療内科へと通うことになった。心療内科では「うつの症状が出ている」と診断された。それから、幻覚の症状が出るようになって、おおきな病院の精神科へ通うこととなった。
 しかし、いまになって思う。あのとき、もっと精神疾患について知っていれば、と。
 こどくは恥ずかしながら、精神疾患はうつ病と適応障害しか知らなかった。統合失調症について知っていれば、もっとしかるべき機関にはやくつながれていたかもしれない。すくなくとも、自分に起こった異常について、客観的な立場から観察できたかもしれない。
 こんなことは、すべて、たらればだ。いまになって後悔しても、もうあと戻りはできない。だからこそ、統合失調症にかかっていないひとにこそ、この病気のことを知ってほしいのだ。
 こどくと同じように、つらい時期が長くならないように。
 こどくはつねづね言っているが、10代の発症が多いのだから、せめて、中学生には知っておいてほしい、と思う。義務教育である中学校の教科書に、精神疾患の記述は必要不可欠だと思っている。
 過ぎ去ったものに、もし、は訪れない。だからせめて、これからのひとたちには、知ってほしい、と思うのだ。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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