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「ひととつながりたい」から、「ひとをつなげたい」へ。「君がいるのなら」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
※#0から読む方はこちらです。


#13 君がいるのなら

 こどくは、パソコンをいじることが趣味である。ロゴデザインや動画制作、ゲームエンジンを用いた環境構築、プログラミングだってできる。
 これらの技能は、VTuberとして活動する際、おおいに役に立つ。しかし、統合失調症になるまで、こどくはパソコンに興味がなかった。
 きっかけは、VTuberとの出会いだ。
 こどくは統合失調症の症状が重かったときでも、VTuberの動画だけは、たのしんで見ることができた。理由はいまとなってはわからないが、まいにちVTuberの動画を見て、たのしかったことだけは覚えている。
 しかし、こどくは孤独だった。統合失調症当事者は、しばしば社会から隔絶されがちだ。それは、陽性症状と呼ばれる症状に由来する社会への恐怖心だったり、陰性症状と呼ばれる症状に由来する意欲の低下だったり、ほかにも社会から病気に対して差別や偏見を持たれていたりなど、その理由は多岐にわたる。
 こどくも例に漏れなかった。家から出ることは1週間に1回あればいいほう。かぞく以外とはしゃべる機会も減った。
 そこで、こどくが挑戦したい、と思ったのが、パソコンだ。VTuberはどうやって活動しているのか、世のなかのVTuberを支えている技術は一体なんなのか。
 たったひとり、家でパソコンに向かい続けた。はじめに購入したノートパソコンから、デスクトップパソコン、さらにスペックの高いパソコンへと、パソコンを買い直さなければならないほどにできることが増え、どんどん技術は上がっていった。
 そして自然と、こどくはやがてこう思うようになった。「ひととつながりたい」と。そして、自分を救ってくれた、「VTuberになりたい」と。
 もちろん、理由はそれだけではない。100人にひとりはかかると言われるこの病気を、もっとたくさんのひとに知ってもらいたい。でも、いちばんおおきかったのは、「こどくがここで生きているということを、伝えたい」という思いだった。
 こどくはたしかにここで生きている。その証を、のこしたかった。
 そんなVTuberデビューから約半年後。こどくは、おおきな1歩を踏みだすことになる。
「ひととつながりたい」から、「ひとをつなげたい」へと。
 こどくは、メタバース空間に、「もりのへや」という統合失調症当事者の居場所をつくるクラウドファンディングを開始した。
「もりのへや」では、運営スタッフ常駐のもと、統合失調症当事者が月に1回、メタバース空間に集まり、いろんな話ができる。統合失調症のことから、日常のちょっと困ったことまで。
 クラウドファンディングは大成功に終わり、「もりのへや」は生まれた。
 そして、それから2年後。先日、「もりのへや」は第25回を迎えた。
 こどくは、パソコンも、なにもかも、これまでやってきたことは、すべてつながっていると思っている。だから、これからも、貪欲に、学んでいこうと思う。
 それで救われる君がいるのなら。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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