しんどくても、つらくても、それでも、たのしむ権利はあるはずだから。「たのしいを求めて」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#14 たのしいを求めて
旅行に行く。それは統合失調症を抱えるこどくにとって、かなり体力を使う行為だ。
統合失調症当事者は、「妄想」という症状によって、しばしばいろんなことをおそれる。今回は、旅行という行為に限っての、こどくのこわいもの、しんどいことを書いていく。
はじめにこわいのは、移動手段。その段階から、こどくのひそかなチャレンジははじまる。
まず、飛行機に乗ることがむずかしい。飛行機は、落ちそうだし、揺れるし、なにより密閉された空間で、1度乗ると降りることができない。
かといって、海路ならよいかと言われると、そうではない。どちらかといえば海路のほうがにがてだ。その理由は、むかし船が沈んでしまう映画を見たことに起因する。もちろん、そんな事故がそうそう起きるわけなどないと知ってはいるが、どうしてもあのシーンがフラッシュバックしてしまう。
では、新幹線など、陸路ではどうか。海路や空路とくらべるとこわい思いはあまりしないのだが、そもそも島国の日本において、行ける場所が限られてしまう。
そんなこんなで、初っ端からかなりハードルが高い「旅行」。しかし、本番はここから。体力は目的地についた瞬間から、本格的に消耗することになる。
こどくには、統合失調症になってから行けなくなった観光地がたくさんある。たとえば、海辺に行けない。これは、海が単にこわいからだ。おおきな水のかたまりがまずこわいし、津波もこわい。海辺だけではない。山は噴火がこわいし、川は増水がこわい。高所なんて行けるはずもない。
それから、旅行先で、まいにち外に出ることもしんどい。体力がなく、できるかぎりいちにちおきに全力を出しながら過ごしているため、まいにちの外出は必要以上に体力を使う。だから、観光も満足にできないことがある。
そして、普段とはちがう環境にいるだけでも、また体力を使う。もはや生きているだけで、つかれてしまうのだ。
こどくは、旅行に行く際は、できるだけヘルプマークをつけて、電車やバスに乗ったら座ることにしている。また、こどくは唐突な予定変更が起きるとパニックになるので、予定をしっかりたてていく。体調や環境のせいで、その予定通りにならなくても、まあいいか、と流す。まあ、そこまで簡単に流せはしないので同行者になぐさめてもらうことがほとんどだが。
旅行に行く、ということは、こどくにとってしんどいことだ。でも、旅先でひとに会ったり、きれいな景色を見たり、たのしい体験をしたりなど、得られることのほうがおおくある。だから、こどくは、旅行に行っていやだった、という経験はない。
しんどくても、つらくても、こどくは旅行に行く。もちろんむりはいけないが、それでも、たのしむ権利はあるはずだ。しんどいの先に待つ、たのしいを求めて。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。