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すべてに意味がなくたって、べつにいいじゃないか。「人生の一部」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#18 人生の一部

 やることなすことに、意味を求めすぎてはいないだろうか。
 こどくには、意味のあることしかやっていなかった時期があった。それは統合失調症になってから体力が落ち、できることが限定されるようになったからだ。すくない体力で、将来役に立つであろうことしか、できなかったのだ。
 しかしそんな日々を送っているうちに、なにに意味があって、なにに意味がないのか、わからなくなってしまった。
 たとえば、それまでの趣味であった、まんがを読むこと。将来その経験が役に立つか考えはじめるとあたまがぐるぐるして、しんどくなった。
 こどくは、できうる限りやることを限定しようとして、逆に自分の首をしめてしまっていたのだ。
 そんなある日、おともだちにそのことを相談した。将来役に立つことをしたいが、どんなことが役に立つだろうか、と。
 おともだちはもう就職をして、立派な社会人になっていた。こどくは、いち大学生として、おともだちに聞いてみたかった。
 すると、おどろいたことに、おともだちは、こう答えた。
「馬のひづめを削る動画でも見たらいいんじゃない」
 こどくは耳を疑った。馬の蹄を削る動画。それがいったいなんの役に立つというのか。
 しかし、実際に動画を見てみて、よくわかった。
 馬の蹄を切る音。削る音。削っているひとと、削られている馬の息づかい。
 それらを聞いていると、なんだかいろんなことが、うまくいくような気がしてきた。
 きっと、おともだちなりの、「どうやったらこどくがやすめるか」という気づかいだったのだろう。こどくは、馬の蹄を削る動画を見て、おだやかな時間を過ごすことができた。
 馬だけではない。牛の蹄を削る動画もあった。
 そして、蹄を削る動画を見ているうちに、あることに気がついた。大半の馬の蹄は、削れば削るほど、白くなっていく。しかし、こどくが見た牛の蹄は、削っても削っても、黒いままなのだ。
 そんな曖昧な知識が、将来なんの役に立つのか。おそらく、立たないだろう。でも、こどくは、自分のきもちが満たされていくのを感じた。
 意味がないことを、したっていいじゃないか。すべてに意味がなくたって、べつにいいじゃないか。意味がない時間だって、人生の一部なのだから。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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