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殺人的な熱波、大規模な洪水・山火事、深刻な大気汚染、経済破綻、気候戦争……『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』より抜粋掲載①〔全3回〕

「今世紀末までに日本を含むアジアの大部分が居住不可能」「4℃の上昇で北極圏にヤシの木が生える」など、気候変動をめぐる数々の衝撃的な予測で世界的な反響を呼んだ『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』が、遂に日本登場。はたして「戦慄の未来」は訪れるのか? われわれに救いの道は残されているのか?
 2020年3月14日(金)の発売に先がけ、本書よりその一部を抜粋して全3回にわたってご紹介します。

いま何が起きているのか

 気候変動の実態は思った以上に深刻だ。進行はゆっくりだとか、実際のところ変動なんて起きていないとか言われているが、どれも不安をごまかすために無理やり思いこんでいるだけだ。そんな思いこみはほかにもある。

・地球温暖化はしょせん遠い北極の話にすぎない。
・地球温暖化といっても、海面が上昇して海岸線が消えるだけのこと。住むところがなくなるとか、奇形が発生するなんて考えすぎ。
・地球温暖化で危機になるのは「自然界」だけ。人間は関係ない。
・自然と人間はまったくの別物。現代の私たちは自然界より一段上の存在だから、自然の変化に巻きこまれたり、圧倒されたりすることはない。
・地球温暖化には、経済で対抗できる。
・経済成長を続けるためには、石油や石炭などの化石燃料を燃やすのもしかたない。

 どれも事実ではないのだが、とりあえず変化のスピードから考えよう。地球上では、過去に大量絶滅が5度起きていて、そのたびに動物の顔ぶれが完全に入れかわり、進化がリセットされた。大きく枝を広げていた系統発生樹が枯れて倒れていったのだ。

 恐竜の絶滅は例外だが、それ以外の絶滅には、温室効果ガスが引きおこした気候変動が関わっていた。二酸化炭素による温暖化がとくにひどかったのは2億5200万年前の三畳紀で、地球の気温は5℃も上昇した。強力な温室効果ガスであるメタンが放出されて温暖化に拍車がかかり、ほんのひと握りの生き物を残してみんな死んでしまった。

 私たちはいま、大量絶滅のときの少なくとも10倍の勢いで二酸化炭素を出している。産業革命以前にくらべると100倍だ。すでに大気中の二酸化炭素は、過去80万年、いや1500万年で最も高いレベルになっている。1500万年前というとまだ人類は存在せず、海面水位は30メートル以上高かった。

 産業革命の開始から積みあがってきた道徳的・経済的なツケを、何百年もあとで自分たちが払わされている――多くの人は地球温暖化をそうとらえている。だが化石燃料を燃やして大気中に放出された二酸化炭素は、この30年に発生したものが半分以上を占める。

 つまり地球の運命を揺るがし、人間の生命と文明の維持をあやうくさせているのは過去のどの時代でもなく、アメリカ元副大統領アル・ゴアが気候変動に関する最初の本を出版したあとの、いま生きている私たちのしわざということだ。

 1992年、国連は気候変動枠組条約を採択して、温室効果ガスの影響を明白な科学的事実として世界に突きつけた。それなのに私たちは、良くないこととわかったうえで、何も知らなかったころと同じように環境破壊を続けている。

隠されてきた「最悪のシナリオ」

 京都議定書が採択された1997年のころには、地球の気温上昇が2℃を超えると深刻な事態になると考えられていた。大都市が洪水に見舞われ、旱魃と熱波、それにハリケーンやモンスーンなど、以前は「自然災害」だったものが、日常茶飯事の「悪天候」になる。マーシャル諸島の外相はそれを「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだ。

 もはやこのシナリオを避けることはできない。京都議定書から20年以上たっても、目標は実質的に何ひとつ達成できていない。法整備やグリーンエネルギーの導入が進み、各種活動もさかんになっているが、二酸化炭素の排出量はむしろ増えている。2016年、パリ協定は平均気温の上昇幅を2℃までと定めた。新聞各紙で見るかぎりは、それは各国が責任を持って防がねばならない恐怖のシナリオだ。しかしそれから数年たち、目標に着々と近づいている先進国は皆無である。いつのまにか2℃目標は望ましいシナリオにすりかわり、それ以上に気温が上昇する忌まわしい可能性は巧みに世間から隠されている。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の現状と、気候変動の今後を評価するための物差しを定めている。議論の余地がない確かな研究結果だけを採用しているため、おとなしめな物差しではあるが。

 次の報告は2022年の予定だが、現時点で最新の報告は、パリ協定で決定しておきながらいまだ実現していない対応をただちに実行しないと、今世紀末までに平均気温は約3.2℃上昇すると警告している。工業化が始まってから、いままでに上昇した気温の実に3倍だ。氷床の融解が現実になり、それも目前に迫った問題となる。マイアミやダッカだけでなく、上海や香港など世界の100都市が水に浸かるだろう。

 いくつかの研究によると、その分かれ目は上昇幅2℃だと指摘されている。ただし二酸化炭素の増加をただちに止めることができたとしても、今世紀末には平均気温が2℃は高くなる見こみだ。
 
 気候予測の多くは西暦2100年をひと区切りにしているが、気候変動の猛威はもちろんその後も続く。そのため次の100年を「地獄の世紀」と呼ぶ研究者もいる。気候の変化は、私たちが認識し、了解するよりずっと速く進み、私たちが想像するよりずっと長く続くのである。

つづく

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プロフィール

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ⓒBeowulf Sheehan

デイビッド・ウォレス・ウェルズ(David Wallace-Wells)
アメリカのシンクタンク〈新米国研究機構〉ナショナル・フェロー。ニューヨーク・マガジン副編集長。パリ・レヴュー誌元副編集長。2017年7月、気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事The Uninhabitable Earthをニューヨーク・マガジンに発表、同誌史上最高の閲覧数を獲得した。2019年、記事と同タイトルの書籍(邦題『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』NHK出版)を上梓。ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなど世界で大反響を呼んだ。「ニューヨーク・タイムズ紙、2019年ベストブック100」選出。ニューヨーク在住。

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