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2℃の気温上昇でホロコースト25回分の死者が! 『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』より抜粋掲載②〔全3回〕

「今世紀末までに日本を含むアジアの大部分が居住不可能」「4℃の上昇で北極圏にヤシの木が生える」など、気候変動をめぐる数々の衝撃的な予測で世界的な反響を呼んだ『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』が、遂に日本登場。はたして「戦慄の未来」は訪れるのか? われわれに救いの道は残されているのか?
 2020年3月14日(金)の発売に先がけ、本書よりその一部を抜粋して全3回にわたってご紹介します。

平均気温が4℃上昇した世界

 複雑な気候システムを理解し、気温が2℃、4℃、あるいは6℃上昇したときの被害を正確に把握するには、地質を調べるのが最適だ。地球の地質時代を探る最近の研究は、いまの気象モデルは2100年までの温暖化を半分程度に過小評価しているかもしれないと示唆する。つまり気温上昇が、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)予測のおよそ2倍になりうるということだ。

 そうなるとパリ協定の排出目標をすべて達成しても、上昇幅は4℃になる。サハラに残る緑も、熱帯林も灼熱のサバンナに変貌するだろう。二酸化炭素の排出を大幅に削減しても気温が4~5℃は上がるとなると、地球全体が生命の住めなくなる星になりかねない。研究者はそれを「ホットハウス・アース」と呼ぶ。

 地球の気温が2℃上昇すると、いったいどういうことになるのか。

 ・地表部を覆う氷床の消失が始まる。
 ・4億人が水不足に見舞われる。
 ・赤道帯に位置する大都市は居住に適さなくなる。
 ・北半球でも夏の熱波で数千人単位の死者が出る。
 ・インドでは熱波の発生率が32倍になり、居座る期間も5倍に伸びて、影響を受ける人の数が93倍に増える。

 これでも「最良の」シナリオなのだ。
 では、上昇幅が3℃だとどうなる?

 ・南ヨーロッパでは旱魃が慢性化し、中央アメリカ、カリブ海では旱魃がそれぞれ平均 1年7か月、1年9か月も続く。アフリカ北部にいたっては5年だ。
 ・森林火災で焼失する面積は地中海で2倍、アメリカで6倍以上になる。

 4℃ではどうか?

 ・デング熱感染者がラテンアメリカだけで800万人になる。
 ・地球規模の食料危機が毎年起きる。
 ・酷暑関連の死者が全体の9パーセント以上を占めるようになる。
 ・河川の氾濫被害がインドで20倍、バングラデシュで30倍、イギリスで60倍に増える。
 ・複数の気象災害が2か所で同時発生することが増え、損害は世界全体で600兆ドルに達する─―いま世界に存在する富の2倍以上だ。紛争や戦争も倍増するだろう。

2℃上昇で死者が1億5000万人増加

 私たちにとって自然は、自らを投影し、観察する鏡だった。では倫理面はどうなのか。地球温暖化からは何も学べない。なぜなら教訓を考察する時間も距離もないからだ。私たちは温暖化を話として語るだけでなく、そのまっただなかを生きている。あえて言うなら、それは途方もない脅威だということ。どれぐらい途方もないか。

 2018年、ドリュー・シンデルらが専門誌ネイチャー・クライメート・チェンジに発表した研究は、温暖化が1.5℃か2℃かで、被害がどう変わるか計算している。それによると、わずか0.5℃のちがいで、大気汚染による死者が1億5000万人以上増えるという。同じ年、IPCCが発表した試算では、その数は数億人に増えた。

 数が大きすぎてピンとこないが、1億5000万人というとホロコースト25回に相当する。毛沢東が推進した大躍進政策は戦争以外で最大の死者を出したが、その数のさらに3倍以上だ。歴史上最も多くの犠牲者を生んだ第二次世界大戦と比較しても、2倍以上である。

 これを食いとめるには、温暖化を1.5℃までに抑えるしかない。すでに数字は累積しつつあって、大気汚染だけで少なくとも年間700万人が死亡している。このホロコーストは、いったいどんな旗印のもとで毎年遂行されているのか。

 気候変動が「存在を揺るがす危機」と呼ばれるのは、そういうことだろう。ホロコースト25回分の死者と被害が最善のシナリオで、人類滅亡の瀬戸際が最悪のシナリオ。私たちは二つの極端なシナリオのあいだで、行き当たりばったりにドラマを演じている。

 地球温暖化はほかならぬ人間のしわざだ。でもそれを自覚したからといって、絶望する必要はない。背景にある仕組みは途方もなく大きくて複雑だし、実際私たちは痛い目にあっている。でも責任はこちらにあると認めれば、それが立ちあがる力になるはずだ。

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プロフィール

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ⓒBeowulf Sheehan

デイビッド・ウォレス・ウェルズ(David Wallace-Wells)
アメリカのシンクタンク〈新米国研究機構〉ナショナル・フェロー。ニューヨーク・マガジン副編集長。パリ・レヴュー誌元副編集長。2017年7月、気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事The Uninhabitable Earthをニューヨーク・マガジンに発表、同誌史上最高の閲覧数を獲得した。2019年、記事と同タイトルの書籍(邦題『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』NHK出版)を上梓。ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなど世界で大反響を呼んだ。「ニューヨーク・タイムズ紙、2019年ベストブック100」選出。ニューヨーク在住。

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