冷凍チャーハンの歴史を変えた、「本格炒め炒飯」のブレイクスルー(ニチレイフーズ・竹本亮太) 【前編】
冷凍炒飯の市場が年々拡大するなか、ニチレイフーズの「本格炒め炒飯®」は売り上げ世界一でギネス世界記録™(※1)に認定されました。同商品は24年前の発売時に「革命を起こした」ともいわれています。いったいどんなブレイクスルーをもたらしたのでしょうか。炒飯のおいしさの決め手とは何か。ニチレイフーズで冷凍炒飯の商品企画を担当する竹本亮太さん(39)に聞きました。
■初めて本当に「炒めた炒飯」
──会社の受付横の「本格炒め炒飯」のオブジェ、インパクトありますね。
「本格炒め炒飯」は弊社の看板商品で、お蔭様で2020年に続き2023年も世界の冷凍炒飯売り上げトップでギネスの世界記録™に認定されました。
──ギネスに認定って、どれぐらい売れているんですか……?
金額にして年間約150億円。1秒に1個以上売れている計算です。2001年の発売以来、国内の冷凍炒飯でトップを更新してきました。
──1秒に1個以上ということは、息をしているこの瞬間にもだれかが手に取っているということですね。ホームページに公開されているニチレイの社史を読むと、「本格炒め炒飯」は「米飯カテゴリーの冷凍食品に“革命”を起こした」と書かれています。何が革命的だったのでしょう?
ひと言でいうなら、業界で初めて「炒める」工程を冷凍炒飯に取り入れたことです。
工場で大量のご飯をまんべんなく炒めることは技術的に非常に難易度が高く、「本格炒め炒飯」が登場する前の冷凍炒飯は洋風ピラフと同じ製法で、具材と味つけを中華風に変えた“中華風の混ぜご飯”のようなものでした。
──つまり24年前の冷凍炒飯は「炒めない炒飯」だったということですか。
逆に現在、家庭の炒飯では「炒めない炒飯」が存在感を増しています。2000年代頭に健康志向を受けて管理栄養士が炊いたご飯と炒めた具を混ぜる方式を提案し、最近では炊飯器を使った調理法が支持されたりしています。家で炒めずに食べられる点で冷凍炒飯もその一角を占めているのかなと。
今の冷凍炒飯は冷凍する前に炒めていますが、おっしゃる通り「本格炒め炒飯」が出る前の冷凍炒飯は「炒めない炒飯」でしたね。
──炒飯とは本来、字の通り「炒める」+「飯」のはず。「炒めない炒飯」が存在感を増す中、「炒飯とは何か」。人は何をもってして、それを「炒飯」と見なすのか、という問いに囚われています(苦笑)。
日々、炒飯と向き合っている竹本さんから見て、炒飯を決定づける要素は何だと思われますか?
炒飯で大事な要素は二つあると思います。一つは「香り立ち」で、「香り」はとても重要です。そして、もう一つが「炒め感」。炒めることによってもたらされる食感や香ばしさです。
■「香り立ち」と「炒め感」が大事
──「香り立ち」と「炒め感」ですか。
で、「香り」で大事な役割を果たすのが「油」です。
お話のあったご飯と炒めた具を混ぜる「炒めない炒飯」は、具から油に移る風味で味わう炒飯なんだと思います。「本格炒め炒飯」より前の冷凍炒飯もそうだったと思いますが、それでも十分おいしく一定の支持はいただいていました。
──油に移る風味を味わうと。
はい。ですから、私たちは自社で「おいしい油」を作っています。例えば、「本格炒め炒飯」ではねぎとしょうが、にんにくの香りとうまみを抽出した自家製の「焦がしネギ油」を使っています。
──炒飯は、究極「米+油」。いかにおいしい油をご飯にまとわせるかなんですね。
プラスして、米の一粒一粒にその油をまとわせる技術によってさらに本格的な味になります。そこがプロと一般とを分かつ「鍵」になる。
20数年前、「本格炒め炒飯」を開発する際に、家庭と中華料理店のプロの炒飯の違いを徹底的に分析しました。炒めたご飯粒を顕微鏡で見ると、プロの炒飯は一粒一粒が卵でコーティングされ、ご飯に余分な油が染み込んでいないんです。まさに、油をまとう感じ。だから油っこくなく食べやすいんです。
──つまり工場で「ご飯をまんべんなく炒める」ことの難しさというのは、ご飯の一粒一粒を卵でコーティングし、かつ一粒一粒炒めることに難しさがあったということですか。
そうです。さらに、それを工場で大規模に作らないといけませんから、その点にも難しさがありました。店でもいっぺんに十人前を作ることはしませんよね?
■米が舞う250℃の空間
──冷凍炒飯に「炒める」工程を組み込んだ「革命性」はわかりました。では、その先に獲得したものは何でしょうか。
炒飯の大事な要素の二つ目に挙げた「炒め感」です。これによって、プロの料理人のパラッとした本格的な味に近づくことができました。
プロの炒飯の作り方を見ていると、ご飯を中華鍋に「焼き付けては、あおる」ことを繰り返しますよね。2015年に、「静と動」の動きを工場の工程に組み込み、プロの調理過程をより忠実に再現する「三段階炒め製法」にリニューアルしました。
──30億円もの投資が当時話題を呼びましたよね。同時期に他社が新機軸の炒飯を市場投入して、「炒飯戦争」ともいわれ注目を集めました。
「三段階炒め製法」では、料理人が鍋を振って「米が宙を舞う」、あの空間を工程に組み込みました。米が舞っている間、中華鍋の上の温度は約250℃あるんですよ。
──「米が宙を舞う」パフォーマンスは町中華などに行くと目を奪われますが、あの縦の空間にも意味があるんですね。
余計な水分がとび、パラパラに仕上がるんです。それで、三段階炒めの二段階目で250℃以上の高温熱風を当てるようにし、同じ環境を再現しました。
■電子レンジから漂う香りの「臨場感」
──「本格炒め炒飯」を電子レンジで温めていると、途中から炒飯のいい匂いが漂ってくるあの瞬間が個人的にはたまらないです。そこから炒飯の時間が始まるというか、パブロフの犬のように待ちきれなくなります(笑)。
先ほど炒飯は「香りが大事」とお話ししましたが、まさにそれです。僕は社内で営業にプレゼンするときは必ず電子レンジを持ち込むようにしているんです。温め途中の、あの香りを体験させるためです。
電子レンジで温めている間は、家で炒飯を作ったり、店で出来上がりを待っているときのような派手な動きや音がありませんが、「いよいよ炒飯が出来上がる」臨場感、ワクワク感をあの香りによって感じていただきたいんです。
──では、その術中に私ははまったわけですね(笑)。
次回の後編では、冷凍炒飯の開発に携わる竹本さんがどんな風に炒飯を食べているのか、どんな店に着目しているかを伺わせてください。
※「本格炒め炒飯」はニチレイフーズの登録商標です。
※1 記録名:最大の冷凍炒飯ブランド(最新年間売上) 対象年度:2020年、2023年
※2 2021年3月~2024年2月のインテージSRI+累計販売規模(価格)より算出
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◆プロフィール
ニチレイフーズ 竹本 亮太
ライン&マーケティング戦略部商品第一部米飯戦略グループマネジャー。2011年入社。冷凍のグラタンやコロッケの商品開発、唐揚げや弁当惣菜、今川焼の商品企画などを経て2021年より現職。
取材・文:石田かおる
記者。2022年3月、週刊誌AERAを卒業しフリー。2018年、「きょうの料理」60年間のチャーハンの作り方の変遷を分析した記事執筆をきっかけに、チャーハンの摩訶不思議な世界にとらわれ、現在、チャーハンの歴史をリサーチ中。
題字・イラスト:植田まほ子